5-3
明くる日の夕方18時前15分。海棠スイミングスクールのロビーに修平と夏輝は並んでそわそわしながら立っていた。ミカが入り口のドアに鍵をかけ、シャッターを下ろした。
「さてと。もうちょっと待ってて。いろいろ片付けてくるから。」
「はい。」
「俺たち、ここで待ってます。いつまでも。」
「二階の観覧席に行っててくれる?」
「え?あ、はい。わかりました。」修平は夏輝の腕を掴むと走り出し、階段を二人揃って二段飛ばしで駆け上がって行った。
ケンジはプールサイドで網のついた長い竿を使って水に浮いた小さなゴミをすくい取っていた。最後のクラスが終わってすぐなので、彼は小さな競泳用水着姿のままだった。観覧席にやってきた二人は、並んで座り、その様子を見ていた。
「いつ見てもセクシーな身体。あたしもうくらくらきちゃう。」
「俺の身体はどうなんだ?夏輝。」
「あんたを見てくらくらするのは、剣道着を着て試合をしてる時だけ。今んとこ。」
「エッチの時もくらくらしてくれよ。」
「しっかり見て、勉強しようね、修平。」
「おう。」
プールとプールサイドを照らしていた灯りが一つずつ消されていった。そして天井に下げられた電灯のうち一灯だけが残され、あとは全て消灯した。プールサイドの一角の狭い範囲だけがその灯りに照らされた。丁度その灯りの下に、三畳分ほどのマットが敷かれていた。
ミカがジャージ姿でプールサイドに現れた。
「おーい、修平に夏輝、どこにいる?」ミカは額に手をかざして観覧席を見回した。
「ここです、ここ!」夏輝は大きく手を振って応えた。
「おお、そこか。近くに来なよ。よく見えるように。」
「はいっ!」夏輝と修平は観覧席を移動し、明るくなっているプールサイドのすぐ近くまでやってきた。
「まるで手に取るように見えそうです。よろしくお願いしまーす!」修平が言った。
ケンジは一度更衣室に消えると、スウェットの上下を身につけてやってきた。そしてミカに近づくと、小声で言った。「本当に、ここでやるのか?」そして観覧席の二人を見た。
「そうだよ。燃えるでしょ?ケンジ。」
「ううむ・・・何と言うか・・・・。か、かなり異常な状況だが・・・。」
ケンジは観覧席の下に目をやった。「しかも、見てるやつがもう一人・・・・。」
カメラを左手に持ってそこに片膝を立てて座っている龍が、にこやかな顔で右手を小さく振った。もう一度ケンジは観覧席を見上げた。夏輝と修平は揃って観覧席から身を乗り出した。