3-1
8月になった。街のアイスクリーム店で、夏輝と修平は二度目のデートの最中だった。今回は春菜も固辞したので二人きりだった。
「やっと、夏休みって感じだね。」
「そうだな。何とかブロック大会まで行ったけど、さすがに壁は厚かった。」
「ケンちゃんも?」
「ああ、やつももう一歩のところで標準記録に達しなかったらしくてな。」
「そうなんだね。」
「今はやつ、毎年恒例の家族旅行中だってさ。」
「家族旅行?」
「そ。『シンチョコ』のケニーさんとマユミさん、それに真雪、」
「いいな、家族みんなで旅行かー・・・・。」
「それにあの『海棠スイミング』の超お似合いのインストラクター夫婦とその息子、龍も一緒に。」
「・・・・・・・。」夏輝は少し寂しそうな顔をしてうつむいた。
「ん?どうした、夏輝。」
「ううん。何でもない。」
修平は夏輝の顔をのぞき込んだ。「なんか、悲しそうな顔、してっぞ。」
夏輝は顔を上げた。「あんたもだいぶ女のコを気遣うことができるようになってきたじゃん。感心感心。」
「へんっ!そんなんじゃねえやい。俺は湿っぽいのが大嫌いなだけだ。」
「だろうね。あんたデリカシーないからね。」
「なんだと?!もういっぺん言ってみろ!」
「だいたい、デートの仕方も知らないくせに、交際をOKするか?」
「な、何っ?俺はおまえにコクられたからOKしたんだ。ありがたく思え!」
「どうせあたしとエッチするのが目的なんでしょ?」
カウンターにいたアルバイトの女性店員がちらりと二人を見てすぐに顔を下げた。
「なっ!お、おまえのカラダじゃ立たねえよ、悪いけど。」
「へえ、そう。じゃ、試してみる?」
「な、何をだよ。」
「あたしを抱いてみなよ。あたし、あんたをイかせることぐらい、簡単にできるんだからねっ!」
「お、お、俺をイ、イ、イかせるなんざ、百年早いってんだよっ!」修平は明らかに動揺し始めていた。
「わかった。じゃあついて来なよ。」夏輝は修平のTシャツの袖を掴んで立ち上がった。
「どっ、どっ、どこ行くんだよ!」
「あたしん家。」
「な、なんだって?!」
「あたしを抱かせてやるよっ!」
「ま、待て、待てよ、夏輝っ!」
修平は夏輝に引きずられるようにしてアイスクリーム屋を出た。
「あ、ありがとうございましたー。」店員が少し引きつった笑顔で二人の背中を見送った。