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修平は身を起こし、夏輝の身体から離れた。夏輝はすぐに起き上がり、ケットを背中から羽織った。そして修平に背を向けてティッシュで股間にまつわりついたどろどろした白い液を拭い取り始めた。修平は布団を降りて下着を穿き直し、夏輝に背中を向けて畳の上にまた正座した。そしておろおろしながら言った。「ごめん・・・・夏輝。」
「イったじゃん。嘘つき。」
「う、嘘つきだと?」修平は振り向いた。
「あたしの身体じゃイけない、って言ったよね。修平。」
「言ったっけ?」
「言った。でもちゃんと出したじゃん。」
「そうだよ、出したよ、確かに。でもおまえの身体でイったわけじゃねえよ。」
「どういうことよ。」夏輝も振り向いて修平を睨んだ。
「あそこをこすりつけてたからイったんだ。一人でやる時と変わんねえよ。」
「そうなんだ。あんたここで一人エッチしたんだ。そうだよね、あたしイけなかったから。確かに一人エッチだったのかも。」
「おまえな!」
「オンナ一人イかせられないんじゃ、まだまだ半人前だね!」
「なんだと?!」
「あたしが入れて欲しい、って言ったのに、全然入れられなくて外に出しちゃったじゃん。あんなのエッチじゃないよ。」
「しょうがないだろ!初めてだったんだ。」
「オンナの抱き方ぐらい、勉強しろっての。」
「このやろー!言わせておけばっ!」
「なによっ!」
修平の顔を睨み付けていた夏輝は、ふっと表情を和らげ、くすくすと笑い始めた。
「な、何だよ、何がおかしいんだ!」
「あんたとあたしって、いっつも最後はケンカになるね。」
「お、おまえがむやみに絡んでくるからだろ。」修平も少し声の力を弱めた。
「あれ?」夏輝はくんくんと鼻を鳴らした。「この匂い・・・・・。」
「え?」
「栗の花の匂いだ。」
「栗の花?」
「そうだよ。裏の木で今年もいっぱい咲いてたから知ってるもん。6月頃。」
「な、なんでいきなりそんな匂いが・・・。」
夏輝は自分の秘部を拭っていたティッシュの丸めた塊を試しにそっと鼻に近づけてみた。「これだ!あんたの出した液の匂い。」
「ええっ?く、栗の花ってそんな変な匂いがするのか?」
「だって、本当におんなじ匂いだもん。あたしは別に変だとは思わないけど・・・。」
「変だろ、それ。マジで臭えよ。」
「あんた自分の身体の中でそれを作ってんでしょ?」
「そ、そうだけどさ。」
夏輝は丸めたティッシュをゴミ箱に捨て、布団の脇に落ちていたショーツを拾い上げて身につけながら言った。「修平、一緒に横になってよ。」
「う、うん。」
修平と夏輝は一つの布団に寄り添って横たわった。
「裏にある栗の木はね、もうすぐ実を落とすんだよ。」
「そりゃそうだ。秋の味覚だかんな、栗は。」
「あたしん家って貧乏だから、人からいろんなものいただいてばかりだけど、この木の栗だけはあたしが収穫してみんなにお裾分けするんだ。毎年。」
「へえ、そうなのか?」
「ここの大家さんがね、拾った分は全部やる、って約束してくれてんの。でも、その代わり、落ちたイガや葉っぱは掃除して捨てなきゃなんない。」
「おまえ、毎年そんなことしてんのか?」
「うん。もらった人はみんな喜ぶよ。」夏輝は嬉しそうに微笑んだ。
「そうか。」修平も何だか嬉しくなって顔をほころばせた。
「秋が来たら、修平にもいっぱいやるよ。楽しみにしてて。」
「いや、俺、おまえと一緒に栗拾いするよ。」
「ホントに?」
「ああ。そん時は呼べよ、絶対。」
「うん。呼ぶ。絶対。お礼は何がいい?拾った栗っていうのも何だか芸が無いね。」
「お礼は・・・・。」修平が夏輝に身体ごと向き直って言った。「おまえのカラダでいいや。」
「あはは。大丈夫、栗拾い手伝ってくれなくても、あたしあんたに抱かれてあげるよ。」
「じゃあ、早いとこちゃんとエッチできるようになっとかなきゃな。」
「そうだね。」夏輝は修平の胸に指を這わせた。「修平は、卒業したらどうするの?」
「俺は、大学行って先々教師になりたい。」
「先生かー、いいね、あんた向いてると思うよ。小学校とかさ。元気いっぱい子どもと遊んでくれる先生になりそう。」
「そうか。そう言ってもらえると・・・。」修平は照れて頭を掻いた。
「剣道も続けるんだよね?もちろん。」
「ああ、お陰でいくつかの大学から誘いがきてる。」
「うらやましいね、一芸に秀でてるってのは。」
「おまえも、警察官、似合ってると思う。俺。」
「ありがと、修平。」
「試験、がんばれよ。」
「うん。」
夏輝は修平の背中に手を回した。修平も同じように夏輝の身体を抱いた。