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しかし結局、街の中心部にほど近い場所にある『海棠スイミングスクール』を三人は訪ねてしまった。
「あ、ケンちゃんだ!」夏輝が叫んだ。三人はプールを見下ろす観覧席に来ていた。丁度健太郎のクラスが終了した時刻だった。健太郎はまだプールサイドにいて何人かと話している。その中には彼のいとこ海棠 龍もいた。
「龍くん逞しくなったよね。」夏輝が言った。
「そうだな。ケンタにそっくりになってきたよな。」修平も言った。
「誰なの?」春菜が訊いた。
「ケンタと真雪の母ちゃんの双子の兄、ほら、あそこに立ってるかっこいい男の人。ケンジさんって言うんだけど、その一人息子、つまりケンタのいとこ、海棠 龍。今中二だ。」
「そうなの・・・。」春菜は眼鏡を押さえて、その龍という少年を見た。
プールサイドにインストラクターの男女のペアが並んで立っていた。二人ともぴったりとした競泳用の水着を身につけている。
「相変わらずミカ先生って、ナイスバディだよなー。」修平が言った。「俺、あんな人を抱きてーなー。」
「いやらしいヤツっ!」夏輝が吐き捨てるように言った。そう言いながら、彼女はミカの隣に立っているすらりと背の高い、見事にバランスの良い筋肉のインストラクター、ケンジに目が釘付けになっていた。
「おい、・・・おい夏輝!」修平が言った。
「え?な、何?」
「ケンタがこっちくるぞ。俺たちに気づいたらしい。」
プールのすぐ脇にあるジムで三人は健太郎と話した。
「何しにきたんだよ。おまえらデート中だろ?」健太郎が水着のまま、髪をタオルで拭きながら言った。「それに、なんで春菜さんまで。おまえら彼女を無理矢理連れてきたんだな。」
春菜は無言で大きくうなずいた。
「だ、だってさ、俺、デートなんてやったことねえし、どうしたらいいかわかんねえよ。」
「いや、理由になってないから。」健太郎は春菜を見た。「迷惑だよね、春菜さんも。」
「う、うん。迷惑。とっても迷惑。」春菜は少し赤くなって言った。
「ほらみろ。」
健太郎と修平、夏輝がわいわい話している間、春菜は初めて見る健太郎の裸体から目が離せずにいた。筋肉質だが柔らかそうな胸、ヒップ、腹部、すらりとした長い脚、そして水着の膨らみ・・・・。健太郎の身体のパーツはどれも美しかった。まるで躍動的なギリシャの彫刻のように、健太郎の体つきは、春菜の中で完璧で理想的なプロポーションとして記憶に焼き付いたのだった。
その夜、春菜は昼間見た健太郎の身体を思い出しながら、スケッチブックに何枚もその裸身を描いた。正面の立位、後ろ姿、膝を抱えて座った側面からの姿・・・・。春菜の手からつぎつぎに彼女の頭の中で想像された健太郎の美しい身体が紙の上に具現され続けた。