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「その絵、あんたにあげるからさ、」夏輝が身を乗り出して言った。「修平、あたしとつき合わない?」
「へ?」ぼと・・・。ミニトマトが修平の口から皿に落ちた。
「あたし、あんたが好きなんだ。」日焼けした夏輝の頬はトマトのようにつやつやで真っ赤になっていた。突然のことに、春菜と真雪は一様にびっくりして、夏輝と修平の顔を見比べた。修平も真っ赤になっていた。
「彼氏になってよ。」
隣の健太郎も箸を握りしめたまま固まり、目を数回しばたたかせた。
「い、いいけど・・・・・。」修平がやっと言葉を発した。
「や、やったー・・・・・。」夏輝はやっと聞こえるぐらいの小さな声で言った。
その瞬間、健太郎が一瞬、ひどく悲しい顔をしたのを、夏輝の横にいた春菜が目撃してしまった。
「ちょ、ちょっと来い!ケンタ。」いきなり修平は座っていた椅子を蹴飛ばして立ち上がり、健太郎の襟首をひっつかんで食堂を出て行った。
取り残された夏輝は、ゆっくりと椅子に座り直した。
「夏輝、あの・・・・。」隣の春菜が恐る恐る口を開いた。
「なに?」夏輝は放心したようにつぶやき、春菜の顔を見た。
「私の思い違いかもしれないけど、」
「え?」
「シンプソン君も、あなたのことが好きだったんじゃない?」
「え?ケンちゃんが?」「ケン兄が?」夏輝と真雪が同時に叫んだ。
「そう。だって、天道君が今『いいけど』って言った時、すごく悲しい顔をしたもの。」
「へえ。気づかなかった。でもたぶんそれは思い違いだよ。あたし彼のことも、入学する前からずっと知ってるけど、そんなそぶり、今まで一度も見せたことなかったもん。」
「あたしも気づかなかったなー。」真雪も言ってパック入りのカフェオレにストローを挿した。
「いや、男の子って意外にそんなものなんじゃないの?好きな子には素っ気なくしたりするって言うし。」
「ケンちゃんはあたしに素っ気なくしたりしないよ。結構仲良しだよ。でも、たぶん、それだけだと・・・・思う。」
夏輝は目を天井に向け、小さく首をかしげてちょっと考えた。
「何か思い当たることがある?」真雪が訊いた。
「そう言えば、あたしが修平と話をする時、必ずケンちゃんが隣にいるなあ、って今思った。」
「それは二人とも同じ工業化学科クラスだし、シンプソン君と天道君は親友同士だからでしょ。」
食堂の入り口を出たところ。ジュースの自販機の脇で修平は健太郎の胸ぐらを掴み、恐ろしい顔で言った。
「おい!ケンタ!」
「な、何だよ、いきなり。」
「なんでおまえ、止めなかった!」
「は?」
「なんで夏輝が俺にコクるのを止めなかったんだっ!」
健太郎は修平の手を振り払って言った。「何わけのわかんないこと言ってるんだ。そんなの俺の知ったことじゃない。だから昨日電話で言っといただろ。それにおまえもOKしたじゃないか。」健太郎はまた悲しい顔をした。
「お、おまえの目の前でコクられるなんて、想定外だったんだよっ!」
「だけど、おまえ、OKしたっていうことは、おまえも好きなんだろ?夏輝のことが。」
「そっ!」修平は思いきり困った顔をした。