3-2
総司より先に帰宅した義母に、この事を伝えた。
義母は目に涙を貯め、「エリカちゃん」と私の手を握った。
私は涙すら出なかった。何しろまだ子供は、胎児はこのお腹の中にいるのだ。部屋を間違えただけなのだ。
「突然出血したりなんかで、ご迷惑をお掛けしたらすみません」とだけ伝え、夕食の支度に戻った。その日の義母との食卓は、一切会話が無かった。
二十時頃、総司が帰ってきた。急いで帰って来たらしい事が、息の弾み具合で何となく判断出来た。顔をみるなり「赤ちゃんはどうだった?」と頬を紅潮させて私のお腹に視線を向けた。
彼の期待に胸を膨らませた顔を見た私は、涙が込み上げて来て、彼に抱きつき,
しゃくり泣いた。
「な、何、どうしたの?」
彼は私の背中をさすり、落ち着かせようとするが、私の嗚咽は高まるばかりだった。
「赤ちゃんが、生まれる事が、出来ないの」
「へ?」
「子宮外妊娠なの」
総司は私が妊娠してから、妊娠に関する本を一通り読んだ。子宮外妊娠についても知識はあるのだろう。
私を抱いたままで、「運が悪かっただけだ。誰も悪くない」と、頬を寄せた。
「一度妊娠出来たんだ。次がある。また赤ちゃんを作ろうよ」
そう言って私の涙を親指で拭ってくれた。しかし総司の目にも、光る水分が震えている事に気づいた。総司の赤ちゃんが消えてなくなるなんて。
作業現場で楽しそうに話す女性社員と総司の事なんて、スッカリ忘れてしまっていた。