ある悪魔の恋-2
そして何年も経ってから、ほんの気まぐれであの丘へ行ってみた。
木は変わらずそこに立っていて、やっぱり昼寝にちょうど良く、俺の独り言を熱心に聴いた。
俺は、何度も木を訪れた。
世界中の出来事を語り、歌を唄い、フルートを吹いた。
もちろん、一声だって返っちゃこない。
何百年も経った。
木はずっと、そこに立っていた。
旨い果実も実らず、申し訳程度の白い小さな花は、たいしてイイ香りもしない。でかいだけの身体でがっしり根を張り、静かに無言で立っている。
いつからか、その根に頭を乗せ、目を閉じて横たわってると、女に膝枕されて寝ているような気分にさえなってきた。
もちろん、木は木だし、たとえコイツが人間の女だとしても、美女からはほど遠いだろう。
どうかしてる……。
てめぇに呆れながらも、お気に入りの娼婦に入れ込む男みたいに、俺は木を訪れ続けた。
そして……
久しぶりに、「悪魔退治」され、俺はバラバラに吹っ飛ばされて、長い時間の末にやっと再生した。
まだやっと動けるくらいだったが、一目散にあの丘へ向かった。
随分久しぶりだけど、きっと変わらない光景が俺を待ってる。
勇者とのスリリングで滑稽な死闘を話してやろう。
それから、また俺はあいつの「膝」で昼寝をして……
それ……から……
丘の周辺は、戦火に包まれていた。
俺が眠っていた間に、のどかだったこの国は、戦争をおっぱじめていたらしい。
軍隊のラッパが鳴り響き、兵士達が殺しあい、そこかしこの村を焼きはらう。
丘は、まだなんとか無事だった。
だけど敗残兵達は、あろうことか「俺の木」の待つ丘へ向かっている。
俺はフルートを吹いた。
魔性の音色は、兵士達をフラフラと別方向へ誘う。
(ふざっけんな!お前らの勝手な争いに、俺の楽園を巻き込むんじゃねぇよ!!)
あらんかぎりの力で、フルートを吹き続けた。
けど……復活したての魔力はか細くて、何万という血に飢えたバカどもは、後から後から沸いて来る。
吹くのを諦め、俺は丘へと急いだ。