伏兵は女王様 <前編>-3
「ま、待てって! 夏樹姉ちゃん!!! 違うんだってば!!!」
階段を降りようとする私の手を取り、
慌てた様子で引き留める隆。
「いや、その…… ごめんね? 私、気が利かなくて…………」
「だ、だからっ 勘違いだってば!!!」
隆の言葉も上の空、どこか頭に血が上った様子の私は、
とにかくその場を立ち去らねばとうつむいたまま目を逸らした。
「頼むよっ 俺の話を聞いてくれって!!!」
跡がつきそうなくらいにきつく私の手を握りしめる隆。
その目はとても真剣そのものだが……
「話って言われても………… そんなの…… き、聞きたくない」
ポツリとこぼした自分の言葉に、誰より自分自身が驚いた。
あくまで憶測だけれど、隆とユイがどこかただならぬ関係なのは明らかだ。
けれど、おそらく隆の話を聞いてしまうと、
きっとそんな私の憶測を明確な事実に変えてしまう。
年の離れた幼なじみに、わずかながらも芽生え始めた私の恋心。
いかにそれが不確かなものであれ、こんな形で壊されてしまうのを極度に恐れた私は、
どうしてもその事実を聞き入れる気にはなれなかったのだ。
「心配ご無用です………… だってユイはレズっ子だから……」
そんな折、隆の後ろからひょっこり顔を出したユイの言葉が、
いっそう私を混乱させる。
「ゆ、ユイっ! おまえまたこんな時に…………」
慌てて振り向いては声をあげる隆など気にも止めず、
ユイは相変わらずのマイペースぶりで私に近づいたかと思うと、
そっと小さな両手を拡げては、突然私の身体を抱きしめてきた。
「夏樹お姉様………… 思ってたとおり柔らかいです……」
抱きしめると言うよりもむしろ抱きつくといった方が正しく思えるほどに、
私の胸に顔を埋めては至福の表情で笑みを浮かべるユイ。
私はあまりに唐突なその行動に、わけもわからず呆然とするも、
すっかり肩の力が抜けてしまっては、ペタリとその場に座り込んでしまった。