伏兵は女王様 <前編>-2
「ちょっ ユイっ!!!」
「待って、もう少し………… んっ………… ふぅ…… ほら、取れた……」
そう言って少女はひょこりと顔を出しては、
手に持つ消しゴムを誇らしげに隆へと見せつける。
(な、なんだ…… 転がった消しゴムを探していたのか…………)
少女は目的が果たされ、満足げな笑みと共にペタリと床に腰をつけるも、
ふと、私の存在に気づいては不思議そうな目で小首を傾げた。
「あれ? …………ひょっとして夏樹先輩ですか?」
両足をハの字に畳み、いかにも女の子らしい小柄な体型をしたその少女は、
初対面であるにも関わらず何故だか私を知っている様子。
「え、えっと………… どこかであなたと?」
「申し遅れました。私…… 隆のクラスメイトで…… 石動ユイと申します」
綺麗な黒髪をバサリと派手になびかせながら、
深々と私にお辞儀をするユイ。
「あっ ど、どうもご丁寧にっ 私は隆の幼なじみで…… その…… あ、有馬夏樹です」
それを見た私もまたつられて頭を下げるも、
隆は相変わらずひとりあたふたしていた。
「幼なじみ………… なるほど…… そういう事でしたか……」
ユイは何やら納得した表情で隆を見つめるも、
まるでそれを避けるように目を泳がせている隆。
「ちょっと………… 何とか言いなさいよ?」
「え? いやっ…… あはは………… と、取りあえず夏樹姉ちゃんも中に……」
そう言っては誤魔化すように私を部屋に導くも、
そのなんとも煮え切らない態度が気に入らなかったのか私は、
「…………スケベ」
と一言、気がつけば思わず隆の頬を軽く抓っていた。
「ってぇ! な、なんだよスケベって……」
「何よ? さっきまで鼻の下伸ばしてユイちゃんのパンツ見てたクセに!?」
「なっ、無い無いっ! そんなの見て無いって!」
「あら、往生際が悪いわね? いつから隆はお姉ちゃんにウソつく子になったのかしら?」
どうしてこんなにも腹を立てているのか自分でもわからないけれど、
顔を紅くしながら必死で言い訳する隆を見てると、
不思議と怒りが増してはいっそう頬を強く抓り上げる私。すると突然、
「隆………… ユイのパンツ見ていた? 言ってくれればいつでも見せてあげるのに……」
いきなりそんな言葉を呟くユイに、思わず私たちは目を向けると、
その場に立ち上がってはスカートの裾を捲り上げ、
何の恥ずかしげもなくその中身を見せつけはじめた。
「ばっ、ユイ!!! 何やってんだお前っ!」
慌ててユイの手を取りスカートを降ろさせる隆。
私は思わずその場に立ち尽くしたまま言葉を失うも、
「えっと………… その…… お、お邪魔しました……」
すぐさまそう言って踵を返しては、逃げるように隆の部屋を後にした。