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【サスペンス 推理小説】

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「それでねぇ、今日はモモちゃんにお願いがあるのぉ」

「はい?」

「あのね、今度の月曜日にここでオフ会させてもらえないかなって」

「はあ? オフ会ってなんですか」

「小説仲間みんなでね、一度会ってお茶でも飲もうってことになったのよぉ。でもほら、みんな主婦さんばっかりだし、外でお茶飲んだりするとお金かかるじゃない? だからここでさせてもらえないかなって」

「えぇ……でも、こんなボロアパートに来てもらうなんて……」

 築20年、自慢じゃないがボロさと壁の薄さはどこにも負けないと思う。なにしろ隣人の携帯電話のバイブ音が普通に聞こえてくるようなレベルである。壁紙は茶色くなってところどころ剥がれてるし、床は歩くたびにミシミシと不安になるような音がする。

「いいのよう、だってウチでやっちゃうと片付けとか大変だしさあ。子供のものがいっぱいで足の踏み場もないし。モモちゃんの家だったら、そういうの気にしなくてもいいじゃない。ね? お願い」

「えー、でもとりあえず主人に一度聞いてみないと……」

「いいのよ、あの子はどうせ仕事でいないんだからさ。それにもうみんなに言っちゃったもん」

「へ?」

「だって、モモちゃんのことだから絶対OKしてくれると思って。ほら、みんな喜んでる」

 ノートパソコンをまたカチャカチャ操作して、今度は仲間内で使っているらしい掲示板を表示させた。たしかに、そこには「月曜日楽しみにしてるね^^」とか「オフ会初めてだから緊張しちゃうっ>< でも頑張って行くよ」とかいう書き込みが並んでいた。

「いや、だから、オフ会は好きなようにやってもらえばいいんですよ。場所だけ変更してもらえれば」

「ええっ、そんなの困る! 今月いろいろ買っちゃって、もうお金ないんだもん。だったらモモちゃん、みんなとお茶してくる分のお金、出してくれる?」

 他人のお茶代を出せるような余裕があったら、こんなアパートに住んでない。毎月キツキツの節約生活を送っているのはヨネコさんだって知っているはずなのに、どうしてそんなことが言えるのか。いろいろ言いたいことはあったが、これまでの経験上ヨネコさんを説得することなんてできないのは学習済みだった。

 しぶしぶ承諾すると、ヨネコさんは満足そうにうなずいて「それでいいのよ」と言った。

「あー、やっぱりモモちゃんに頼んで良かった。安心したらお腹すいちゃったわぁ。モモちゃん、今日のお昼は何作ってくれるのぉ?」

 わたしは深いため息とともに立ち上がり、昨日の残り物のカレーを鍋で温めた。


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