『お父さま』に反抗-1
――お腹が減った。
世界は辛くて悲しいものばかりで、誰も助けてなんかくれない。
――お腹が減った。
大人達が言ってた。神さまは、悪い子なんか助けてくれないらしい。
盗むのも騙すのも、「悪い事」みたい。
でも、盗まなきゃ、騙して奪い取らなきゃ、お腹が空いて死んじゃうの。
がんばって悪い事をしながら生きる子より、何もしないで死ぬ子のほうが、神さまは好きなのかなぁ?
……どうでもいいか、そんなコト。
神さまなんか、本当はいないんだから。
――ああ、お腹が減った。
「……ぅ」
柔らかく髪を撫でられている心地よい感触に、ゆっくり目を開ける。
「おはよう」
ルーファスの顔が、間近にあった。
いつのまにか手は解かれ、子猫のようにルーファスの胸にもぐりこんで眠っていた。
「あ……!」
あわてて起き上がったが、一糸まとわぬ姿なのに気付き、さらに赤面した。
必死でシーツをたぐりよせて身体を隠すと、愉快そうに笑ったルーファスに抱き寄せられ、軽く口づけられた。
彼はバスローブを羽織っており、均整のとれた身体からは湯上りの香りがした。
「っ!ルーファスさまっ!」
「今日はゆっくり休んだほうがいい。クレオが湯浴みの準備をしてくれている」
「あの……!」
深く息を吸い、思い切り抗議した。
「他にもっと、おっしゃるべき事があるのでは!?」
「他に?じゃぁ……」
ルーファスの口元が、ニンマリする。
「カテリナの抱き心地は最高だった。今夜も抱きたい」
「……!!」
唖然として、声もでない。
「そういう事だから、昼のうちにゆっくり休んでくれ。俺はもう仕事を始めなくては」
呆然とするカテリナから身体を離し、さっさとルーファスは着替え始める。
手早く身支度を整えると屈みこみ、座り込んだままだったカテリナの耳元へ、そっと囁いた。
「俺は、君が思っているほど甘くないし、君に飽きるつもりも逃す気もない」
口元は優しく微笑んでいたが、青空色の瞳は欠片も笑っていなかった。