Dreams-2
また風景が変わった。
彼は砂浜でオレンジの夕日を見ていた。
波音は聞こえない。
ただ、丸いオレンジがブルーの向こうに沈んでいく。
それは心象風景。
夕日を浴びた彼の背中は、夢の終わりを拒絶していた。
目が醒めれば、また濁流のような日常。
それでも、現実に戻れることは素晴らしい。
僕は、ただ消えるだけ。
記憶も自己も何も持たずに、彼に創りだされた虚像は、やがてその焦点を失う。
「ごめん」彼は言った。
「君は気付いているんだね。ここが夢の中だってことに」
「あぁ、気付いているよ」
「ごめんね、ごめん」
沈みゆく軌跡を辿りながら、繰り返す。
「気にしないでよ。僕はここで生まれたんだから、ここで死ぬのさ」
とっても短い時間だったけれど「良い夢をありがとう」
「僕が目を覚ましたら、君は消えてしまうのかな?」
「多分ね。だって君がいなけりゃ、この夢の世界は成り立たないだろ?」
そうだよね。
恒星は堕ちる。
世界は終わる。
君は目を覚まし、僕は意味を無くす。
ただ、それだけのこと。
ひとつの夢が閉じる。
ただ、それだけのこと。
陽は沈み、世界はまた白に包まれていく。
彼は僕を振り返った。何ともいえない表情を浮かべる、その瞳は同情の色を添える。
「心配しなくていい。ここは意味のない世界だから。君は目を覚ませば直ぐに忘れる。現実の波が君をさらっていく」
「ずっとずっと、この夢の中でまどろんでいたいんだ」
「でも無理なんだ。分かるだろ?」
白の壁が、再び僕らを囲う。
「あぁ、分かるよ。分かる」
彼はひとつ、深呼吸をした。
「ごめんね、さよならだ。勝手に作って、勝手に終わらせる僕を許して欲しい」
「謝らないでくれよ。夢なんてそんなモンさ。きっと僕は君の夢の中だから生まれてきたんだ」
壁の隙間から光が漏れてくる。その光を浴びて、僕は段々と希薄になっていく。
ちっぽけな、一夜限りの夢が終わる。
「また会えるといいね」彼が言った。
もう二度と、彼は僕を創れない。
「そうだね」だから僕は応えた。
それは夢幻の可能性。
朝の光に包まれて、
ゆっくりと、
ゆっくりと、
君は僕を忘れていく。
君は僕を消していく。
何度も何度も、人は夢を見る。
その中に生まれ、消えていく命がある。
誰の記憶にも残らない、その蜃気楼のような存在。
残酷でありながら
それでも僕らは、夢を見る。
TheendofDreams
producedbydelta