悪しき者に、断罪を-4
城の正門を抜ければ、そこはもう城下町だ。
都市の規模としては小さなほうだが、名産品のワインが旅人を呼び、そこそこ活気がある。
ランベルティーニ領地は、国内で最大のワイン産地であり、他にもりんごや桃など、年間を通して豊かな果物が実る。
北側にそびえる山脈が寒波を防ぐと同時に、豊富な地下水を蓄えてくれるからだ。
地下水は各所で泉や川になり、領地を潤し、川魚を気前よく提供する。
そんな恵まれている環境のせいか、この地はのんびりした気質の人間が多い。
『旅人か領民か、歩かせてみりゃわかる。のんびり歩くほうがランベルティーニ領民だ。』
などと、揶揄されるくらいだ。
城下町の治安を維持するのは警備隊だが、白髭を蓄えた老隊長も、まさしくそうしたランベルティーニ領民だった。
「領民がのんびり暮らせるのは良いことだが、警備隊までのんびりされると、少々困るな」
警備隊の詰め所からの帰り道、馬車の中でルーファスはぼやく。
「それとも喜ぶべきか?カリカリ犯罪者を追い回さなくとも、犯罪件数がこれだけ少ない」
窓からは、のどかな昼下がりの町が見える。
隊長の孫自慢や景気の話を織り交ぜながら、のんびり話をされ、こんな時間になってしまった。
昼食の誘いを断り、城に戻るところだった。
治安の良さでは国内で五本指に入るこの領地でも、人がいる以上は犯罪もある。
今月も、スリなど軽犯罪は数件あったが、幸いにも殺人などは起こらなかったそうだ。
近頃、国内の各地を荒らしまわっている盗賊団がいる。
この領地からも、討伐の兵を送るように要請がくるだろう。
そのためには、領内の治安調査や兵の募集がかかせない。
「要点を絞れば五分で済んだはずですね」
リドも苦い顔で書類を叩き、ぼそっと呟いた。
「帰ったらすぐ、他の書類仕事だな」
ルーファスも苦笑する。
馬車の車輪は軽快な音を立てながら、城門をくぐっていった。