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堕ちた天使の夜想曲
【ファンタジー 官能小説】

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天使に告白-1


 鳥たちに餌をやりおえたカテリナが正面玄関に戻ったのと、護衛の騎士に囲まれた豪華な馬車がつっこんできたのは、ほぼ同時だった。
 クリーム色のドレスに埃が舞い、ケホケホとカテリナは咳き込む。

 玄関に馬車が横付けされると、城からあわてて走り出たメイドが扉を開けた。

大きくスカートが広がった、ラズベリーレッドの華やかなドレスの少女が、すました顔で優雅に降りてきた。

 カテリナと同じくらいの年頃だが、さらに小柄だった。
 華奢な身体に不釣合いな大きな胸が自慢らしく、ドレスは常に胸元の大きく開いたデザインを愛用していた。
 黒髪は丁寧にカールされ、孔雀のように着飾っている。

 フィオレッラ・イルマ・メレディアーニ。

 彼女は、別所に領地をもつ公爵の娘だが、この近くに別荘を持ち、よく突然来る。
 メレディアーニ家の領地は狭いが、豊かなルビーの鉱山を持っていると聞いた。
 ネックレスもイヤリングも指輪も、全てに最高級品のルビーが輝き、いつもながら豪華さに眼も眩みそうだ。

「おはようございます。フィオレッラさま」

 正直に言えば、カテリナは彼女が苦手だったが、少しでも和解できればと、挨拶をする。

「アラ、図々しいわね。まだいたの」

 カテリナを横目で睨み、襟元まで覆い隠すシンプルなドレスをジロジロ眺めた後、フィオレッラはバカにするように口元をゆがめた。

「あいわらず趣味が悪いのね。記憶がなくっても、それで育ちが知れるわ」

 そして彼女は次に、迎えに出たメイドを睨んだ。

「ルーファスと一緒に朝食を頂こうと思って、こんな朝早くから何も食べずに来たの」
「ま、まぁ……では早速ご用意させて頂きます」
「当然よ。けど、まさかあの女も一緒にテーブルに付くんじゃないでしょうね!?」

 カテリナを扇で指し、フィオレッラがキンキンがなりたてる。

「そ、それは……カテリナさまも、ご一緒に食事するよう、当主さまのご命令でして……」

 あわてて答えるメイドに、フィオレッラは眉を吊り上げて詰め寄る。

「ルーファスが、そんな事言うわけないでしょう!アンタの間違いよ!」
「でも……それは……その……」

 おろおろと困りきっているメイドに、カテリナは声をかける。

「私、ちょっと気分が優れなくて……申し訳ないけれど、朝食は遠慮させていただきます」
「カテリナさま……ですが……」

 あわてて振り返ったメイドの頬が、フィオレッラの扇で張り飛ばされた。

「痛っ!?」
「ちょっと!!なんて事してくれるのよ!」

 見れば、メイドはフィオレッラの長いドレスの裾をしっかり踏んづけている。

「きゃっ!!申し訳ございませんっ!!」
「フン、本人が食べたくないなら良いじゃない。ああ良かった!また花瓶の水をかけられる心配がなくなったわ」
「その節は、大変失礼いたしました」

 もう百回は謝ったはずだったが、カテリナは謝罪を口にし、急いで城に入った。
 これ以上ここにいないほうが良さそうだ。
 何より、二人の間で泣きそうになっているメイドが気の毒すぎる。


 フィオレッラと初めて会ったのは、一ヶ月ほど前。

 カテリナの怪我もほぼ回復し、今日のように突然尋ねてきたフィオレッラに紹介されたのだ。
 特に聞かずとも、フィオレッラがルーファスを好きなのは十分わかった。
 そして当然ながら、彼女はカテリナへ敵意をむき出しにしてきた。

 三人で晩餐を食べながらも、ルーファスがしきりにカテリナへ話しかけるのに、相当腹を立てたらしい。
 怒鳴りつけようと急に立ち上がったフィオレッラは、背後で紅茶ポットを持っていたメイドにぶつかった。
 熱湯がメイドとフィオレッラに降りかかる瞬間、カテリナはとっさに食卓へ飾ってあった花瓶の水を、二人へぶちまけたのだ。
 カテリナ自身も、どうしてあんなに素早く動けたのかわからなかった。
 身体が勝手に動いたのだ。
 おかげで二人は火傷を負わずに済んだのだが、フィオレッラはカテリナが悪意で水をかけたと、怒り狂った。
 周囲がいくら取り成しても無駄。

 それから顔をあわせるたび、フィオレッラの怒りは余計に燃え上がっていくようだ。



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