天使に告白-2
「私は、ルーファスさまに恋してるわけじゃないのだけれど……」
中庭にある礼拝堂の前まで来ると、ホっとしてついこぼしてしまった。
「それは傷つくな」
「ルーファスさま!?」
柱の影から、少し拗ねたような顔をしたルーファスが姿をあらわす。
「カテリナに嫌われてるとは思わなかった」
「ち、違います!嫌いじゃありません!」
恋していないといっただけだ。こんなに優しくしてもらって、嫌いなはずがない。
毎朝からかわれるのは困るが、それでも十分に魅力的だと思っている。
思わず叫ぶと、ルーファスは途端にニンマリした。
「へぇ、じゃぁ俺の事をどう思ってる?」
「え?えーと…………いつもお世話になっております!」
「………俺は、取引相手みたいだな」
一生懸命考えて言ったのだが、ルーファスは目に見えて凹んでしまった。
さっきから忙しい人だ。
「――はぁ。あーそう。ふぅん……」
「私、何かいけないことを言いましたでしょうか……?」
頭一つ背の高い青年領主は、カテリナをジト眼で眺めて口を尖らせる。
「いいや、別に。それより朝食に行かないのか?」
「その……私は気分が優れなくて……」
「フィオだろ。聞えてたぞ」
「……っ」
「気にするな。一緒に来い」
掴まれた手首を、振り払った。
「食事はお二人でなさってください」
「カテリナ?」
「フィオレッラさまは、ルーファスさまが好きなのです。私にその気がなくても、他の女性と一緒に暮らしているのなら、苛立つのは当然です」
ここで暮らしてすぐ、ルーファスがとてもモテる事を知った。
見た目も中身も上等。そのうえ名門の当主なのだから、無理も無いと思う。
よく貴族や豪商の娘が尋ねてくるし、パーティーの招待状もひっきりなしに来る。
フィオレッラは、その女性達の中でも一番裕福で身分が高かった。
また、彼女の父はルーファスの亡き父とも懇意にしていたらしい。
「それに、ルーファスさまのお父さまがご存命でしたら、彼女を貴方と婚約させる予定だったとお聞きしました」
フィオレッラが主張していた事を告げると、ルーファスは顔をしかめた。
「そんな話は聞かなかったし、父も墓の中で首を振っていそうだ」
「ですが……フィオレッラさまでしたら……」
正しいと思ったことを口にしているだけなのに、なぜかジリジリ焼け付くように心が痛かった。
それでも間違った事は嫌だから、カテリナは我慢して続ける。
「ルーファスさまの婚約者として、相応しい身分の方と……っ!?」
顎を掴まれて強引に上を向けされた。
ルーファスの顔に浮かんでいる、酷く冷めた表情に、言葉が止まる。
「……身分身分と言われるのには慣れたと思っていたが、カテリナから言われると、けっこう堪えるな」
「あ、あの……っ!?」
さっきより、もっと強く手を引かれた。
ルーファスが礼拝堂の扉を開け、有無を言わせずに引き込まれる。