神様にお願い -2
「はぁ、こうなったらお前と結婚するしかないか……」
「ゾっとする事を抜かしやがらないで下さい」
口の悪い執事は、ものすごーく嫌そうに顔をしかめた。
川辺に座り込んだままリドを見上げ、ルーファスは抗議した。
「だいたい、どいつもこいつも口を開きゃ、『ウチの娘と子どもをつくってくれ!』女は女で、すぐ物陰に俺をひっぱりこもうとする!!俺は種馬かよっ!?」
「……はいはい。わかりましたから、口をつつしみやがってください」
「ぐむっ!むむむっ!」
容赦ない執事に口をつねり上げられ、ルーファスからくぐもった悲鳴が上がる。
「とにかく。ご自身のために、最大限に有利な結婚相手を見繕う事をお勧めします」
ようやく手を離され、口をさすりながら、ルーファスはしぶしぶ頷いた。
「ああ。……わかってる」
リドは意地悪で言っているのではない。
むしろ、ルーファスを心から案じているからこそ、やっきになって結婚を勧めるのだ。
ルーファスの両親もすでにこの世をさり、他に兄弟もいない。
しかし地位と財産を狙う遠縁は何人もいた。
幼い頃から、何度も不快で危険な目に合い続けたルーファスは、この家名がどれほど人心を狂わせる禍々しい代物か、身にしみている。
権利を放棄し、誰かに譲ったとしても無駄だ。
その相手からは疑われ、外された他の物からは憎まれる。
そうして暗殺された祖先が、何人いることか!
この家に生まれてしまった以上、戦い抜くしか道は無い。
身の安全を得るためには、どこぞ有力な貴族の娘とでも結婚し、『ランベルティーニ家』でなくルーファス自身の後ろ盾を頑強にする必要があるのだ。
「わかったわかった。そろそろ行くとするか」
しぶしぶルーファスは立ち上がり、リドも後につく。
「そんなに貞淑な女性がお望みなら、川から清らかな天使でも流れてくるよう、神にお祈りしたらどうです?」
「ハハハッ!そりゃいいな。俺好みの可愛い天使が……」
軽口をたたきながら川を振り返ったルーファスの言葉が、一度止まる。
「リド……神さまってのは随分気前がいいな。早速、俺の願いをかなえてくれた」
「はぁ?アホな事をおっしゃってないで……」
呆れ顔の執事も、流木に掴まった金髪の少女が川の中ほどを漂ってくるのを見て、顎が外れそうになる。
一度、目をパチクリした後、ささっと十字をきって天を仰いだ。
「神よ!私にも、すぐトンズラしない主人が流れてきますよーに!!」
「お前こそ、アホな事言ってないで助けろォォ!!!」
ルーファスは怒鳴りながら、今にも沈みそうな少女を助けるべく、バシャバシャ川の中へ入っていった。