別れの結末-3
舞い上がる私。
でもデートじゃない。私が勝手にそう思っているだけ。
それまでにも彼とは何度か食事に誘われていた。
お互い仕事帰りだから、他愛のない話を2時間くらいしゃべって帰る。彼に誘われるたびにいつもその先を想像してしまう。だけど、そんな甘いひと時はなく、ご飯を食べたらお開き。
知り合って1ヶ月か経った。
メールが来て、一緒に食事に行く仲になった。嫌われているわけじゃないと思う。
だけど彼から告白されたわけじゃない。私は彼女じゃない。
『うん、いいよ。パスタ楽しみにしてる』
彼女じゃないけど、彼と会える。それだけでいい。
メールを返信して、にやける顔を両手でパンとはたいた。
こんな顔をして仕事に戻ったらなんと言われるか分かったものではない。
週末が待ち遠しかった。
どんな服を着て行こう?
ネイルも予約しなくちゃ。
そうだ、この間買ったミュール、どこにしまっちゃったかな?
この間どんな服着て行ったっけ?
帰りに洋服屋さんによって新しい服を買って帰ろう。
彼の事を考えているだけで楽しかった。
待ちに待った週末。
彼が車で迎えに来てくれた。
その日は朝から映画に行って、ご飯を食べて、2人でウィンドゥショッピングをした。
カフェでお茶して、夕御飯は彼が言っていたパスタ屋さんに向かった。
そこは小さなまちの洋食屋さんで、私たち以外のお客さんはいなかった。
2人でパスタを注文して、いつもと同じように他愛のない話をして笑いあった。
家に帰る時も運転する彼の隣で私はずっとはしゃいでいた。
1人で良く喋る私の話を彼が笑って聞いている。
ラジオから懐かしい曲が流れ始めると、昔の思い出話に花が咲いた。
時間はまだ8時前。
「ねえ、もう少しだけドライブしない?」
彼の提案に私はうなずく。どんな理由であれ彼と一緒にいられる事が嬉しかった。
ラジオから流れる曲に耳を傾けながら、私は曲を口ずさんだ。
その曲は私の好きな曲で、高校生の頃ウォークマンに入れて何度も聞いていた曲だった。
この曲が好きだと言ったら、彼も好きだと言ってくれた。
ただそれだけだったのに、私の心の中は幸せでいっぱい。その幸せに心の弱いところを掴まれて涙が出そうになった。
彼が好き。
同じ気持ちならいいけど、でも確かめるのが怖かった。
この気持ちを知られたら彼は私の前からいなくなってしまうのではないか?
今みたいに、こうやって2人で会ってくれなくなるんじゃないか?
だったらこのままの関係でいい。
私は彼を失いたくなかった。
車は高速に乗って私の知らない道を走る。
不安になってどこに行くのか聞いてみた。
「まだ内緒」
いたずらっぽく彼が笑う。
車は高速を降りて、隣の県までやってきた。
ラジオから聞こえるDJの話を聞きながら、このまま彼がどこに向かっているのか恐くて仕方なかった。
自然と無言になる車内。
着いた先は海だった。
真っ暗で何も見えないけど、波の音とかすかに潮の匂いがした。
車を止め、サイドブレーキを引いた。ラジオも切って静まり返った車内。彼が一言、
「付き合ってほしい」
まっすぐに前だけを見ている彼。驚いて反射的に彼を見た。彼の顔は耳まで真っ赤だった。
「初めて会ったときからずっと気になってた。よかったら俺と付き合ってほしい」
そう言いながらゆっくりと私を見る彼。
じっと見つめられたその瞳に、心臓がドクリとなった。
嬉しかった。それなのに気恥かしさで私はうまく答えられなかった。
だけど嫌だって思われたくなくて、首をゆっくりと縦に動かした。
「本当に?」
こっくりとうなずく私。
彼が私に抱きついた。
「うれしいよ。大切にする」
その夜。私たちはそのまま唇を重ねた。
「愛してる。いつまでも大切にするから」
ゆっくりと、お互いの感触を確かめるように何度も何度もキスを繰り返した。