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数ミリでも近くに
【大人 恋愛小説】

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拡散-1

「葉子体調悪いみたいだから、ハムエッグは俺が食べちゃうよ」
 リビングにいたスミカに言うと「食べちゃってー」と返事が返ってきた。
 ダイニングテーブルについて、レンジで温めたハムエッグを突く。
 スミカは手にしていた新聞をローテーブルの下に置き、ダイニングテーブルの対面に座った。
「葉子、どんな感じ?」
「胃がムカムカするんだと」
 むしゃむしゃとハムエッグを口に運ぶ。
「ねぇ、それってつわりじゃない?」
 健人の動きが止まった。思わずスミカの顔を見てしまった。
「図星。嘘がつけないタイプだね、健人は。晴人には内緒にしておくよ」
 健人は肯定も否定もせず、ハムエッグを食べた。
「夕飯も恐らく食べられないだろうから、三人分で良いと思うんだ。
「ごめん、今日私、武とデートだから、夕飯は佐藤さんが来るから」
 という事は、夕飯は兄と二人でとる事になる。
 いずれは言わざるを得ない話。すべきか、しないでおくべきか。


「じゃぁ、私はこれで」
 スミカの実家から来た家政婦の佐藤さんが、夕食にオムライスを作って帰って行った。
「兄ちゃん、夕飯だよ」
 あいよ、と声があって晴人が部屋から出てきた。
「二人で夕飯なんて、何か珍しい光景だね」
「そうだね」
 スープに口をつけ、少し晴人を見遣った。何か思案顔をしているのが分かる。
「なぁ、葉子、まさか妊娠したんじゃないよなぁ?」
 部屋にいる葉子には聞こえない様な小さな声で健人に訊ねる晴人は、健人の返事を聞く前から動揺していた。
「身に覚えがあるんでしょ、兄ちゃん」
 敢えて晴人を見ずにそう言うと、「んー」と返事に窮していた。
「避妊しないでセックスした事は糾弾しないよ。でも、生まれてくる子供の父親は、遺伝的には兄ちゃんでも、兄ちゃんと葉子が別れた今は、葉子が決める事だと思ってる。それでいいよね?」
 オムライスに掛かったケチャップを玉子の薄い膜にペタペタと塗りつけながら、再び「んー」と返事にならない声を出した晴人に、健人は苛立ちを隠せなかった。
「俺は選択肢として、一人を選ぶか、兄ちゃんを選ぶか、俺を選ぶかの三つを提示してきた。他に考え付かない。俺は、血のつながりが全てではないと思ってる。兄ちゃんと俺だって、半分しか繋がってないのにこうして仲良くやってる。俺は血が繋がってなくても、兄ちゃんの遺伝子を持ってる子供ならなおさら、きちんと育ててやる、そう思ってる」
 左手で頭をぽりぽり掻きながら「お前には敵わない」と晴人は言った。
「俺は葉子一人も幸せにしてやれるか分かんないもんな。その三つの選択肢に入れて貰えただけでも光栄だ」
 そう言ってオムライスを一口運んだ。
 結局、バードハウス内には葉子の妊娠を知らない者はいなくなってしまった。
 鈍い連中ではないという事だな、健人はそう思った。


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