異変-2
まずは、彼女がどういう道を選択するか、が先決だ。
ドラッグストアにつくと、カゴの中に数種類のゼリー飲料と、ピンク色の箱に入った妊娠検査薬を入れてレジに並んだ。
クリスマスプレゼントを買うのは恥ずかしかったのに、妊娠検査薬を買うのは恥ずかしい事じゃないんだな、ふと思った。
「葉子、歩ける?」
「うん」
検査薬を箱から出して彼女にそれを握らせ、一人でトイレに向かわせた。健人が一緒にトイレまで付いて行くというのも何だか変な感じだったし、リビングには晴人がいたからだ。
「大丈夫か?」
兄の大きな声が聞こえた。
それから暫くして、足を引きずるように葉子が部屋に戻ってきた。ラグにへたり込んだ。
「妊娠、してる――」
悪夢が現実になった。これは風邪なんかじゃない、つわりだったんだ。
葉子は事態に狼狽えていると言うよりも、茫然自失と言った状態で、何と声を掛けたらいいのか分からなかった。
「葉子は――葉子はどうしたい?」
葉子はラグに身体を横たえようとしたので、頭を支えて健人の脚を枕にさせた。
「私のお腹に宿った命だから、私に会いにきたんだから、産みたい。けど――」
「父親が、でしょ」
無言で頷く葉子の目には、涙が浮かんでいた。
「一つ目は、シングルマザーとして出産する。二つ目は本当の父親である兄ちゃんと育てていく。三つ目は――」
涙が零れる寸前の双眸を健人に向けた葉子は「三つ目は?」と小さな声で訊いた。
「俺が父親になる。葉子さえよければそうしたい」
葉子の目から涙が線となって流れ出た。
「お腹の子は、俺との血のつながりはないけど、兄ちゃんの血が流れてる。俺は兄ちゃんと半分は血が繋がってる。そう遠くないと思わない?」
葉子は少し笑った。笑うとまた涙の量が増す。
晴人とはやっていけない、そう心に決めて、健人と付き合うことを決めたのは、他でもない葉子本人だ。
お腹の中の子供が晴人の子供であっても、晴人との将来なんて考えられない。
かと言って、子供を父親なしで育てていく勇気はない。
健人の気持ちが有難かった。だけどそれでいいんだろうか。健人は、自分と血のつながりが無い子供を愛してくれるのだろうか。不安だった。
「一日、考えさせて。その三つしか選択肢はないと思うから、一つ選ぶよ」
「分かった。皆には体調が悪いみたい、で通しておくから、ベッドで横になってなよ。何かあったら携帯鳴らして」
葉子の携帯を掴み、葉子を支えるようにしてロフトにあがり、ベッドに横たわらせた。
「葉子の気持ちを尊重するから。おれは三つのどれになってもいいから」
そう言うと健人は立ち上がろうとしたが、葉子が健人の手を掴んだ。
「健ちゃん、大好き」
しゃがみ込んで健人は葉子の髪をかき上げ、触れるだけのキスを落とした。