アナログ盤-1
本格的に寒さが厳しくなってきた。
住宅街にはクリスマスのイルミネーションを付けた家が点在し、年の瀬を嫌がおうにも感じさせる。
「去年は健ちゃんと私しかいなかったから、クリスマスパーティしなかったんだけど、今年はプラス晴人かな」
葉子は指折り数えて見せた。
「スミカは彼がいるんだもんね」
ソファに身を委ねて、晴人が応えた。
「この三人でクリスマスパーティするってのも何か、微妙な感じだね」
クスっと葉子は笑ってクッションに顔を押し付けた。
クリスマスを来週に控え、何をするか決めかねていた。
「とりあえず宅配のオードブルと、駅前のケーキ屋さんのケーキでしょ」
「酒と、健人用のソフトドリンク」
「あ、チキンだ、あれがないとクリスマスは始まらないよ!」
葉子は手元にあるメモ帳に書き出した。リストが段々と長くなる。
「そのクラッカーっての、いらなくないか?俺ら、大人だし」
「まじでか」
「クラッカー」を二重線で消す。
「プレゼントは?みんなで交換?」
ウキウキして顔を覗き込む葉子のおでこをペチンと晴人が叩いた。
「そういうのは恋人同士で交換するの」
「あぁそうかぁ」とヘロヘロの声で答える葉子に「健人には、何かあげるの?」と訊いた。
「分かんない。考えてない」
急速に笑顔を萎ませる葉子を見るのが辛くて、何とか笑顔を取り戻させようとした。
「俺と健人にはプレゼント無し!こういうのは女の子の特権!だから葉子、俺にプレゼント買わないって約束ね」
晴人は小指を立ててずいと目の前に寄こしたので、葉子は笑って小指を絡ませた。
「絶対買わないで」
「死んでも買ってやるもんか」
クリスマスイブは晴人がケーキを買ってくる係りになった。
「中まで苺がびっしり入ってるやつじゃないとダメだからね」という葉子の要望に沿うショートケーキを調達した。
チキンは健人が、三人で食べられそうな分量を買ってくるという事になった。
葉子はいち早く家に帰って、宅配待ちだ。
宅配が来て、リビングのテーブルに配膳していると、健人と晴人が同時に帰ってきた。
「すぐそこでばったり会ってさ」
晴人は持っていたケーキを冷蔵庫に仕舞おうとして「葉子、いれる場所が無い」と困っていたので葉子は「野菜室に入れておきなさい」と指示した。
健人が持っていたチキンは、まだそれなりに温かかったので、そのままお皿だけを替えてテーブルに出した。
各々がお酒(健人はジュース)を持ち、乾杯をした。
「飾りも何にもないクリスマス会って、何かお食事会みたいですな」
チキンをもぐもぐ言わせながら葉子が言うと、確かに、と二人が頷く。
「葉子がサンタのコスプレでもすりゃよかったんじゃない?ハンズに売ってるじゃん、ミニスカのやつ」
隣に座る晴人の脚を思いっきり踏んづけると、「ごめんなさい!」と反射的に晴人の声が出た。
「まぁ、普段食べないような物食べて、いいんじゃない、これで」
至極大人な意見を述べる健人に、残る二人は平伏すばかりだった。
その後ケーキを切り、苺の位置がずれているだの、ケーキの大きさが違うだのと痴話喧嘩を繰り広げたのは勿論、葉子と晴人で、健人はただただ出されたものを平らげるという感じだった。
葉子はもう少し健人とも話したいと思ったが、彼は遠慮しているのか、あまり口を開かなかった。
全ての片づけを終えて、今年のクリスマスパーティは終了した。