気付く-1
朝、葉子が「アナーキーインザUK」を止めて自室を出ると、キッチンの前には健人が立ち尽くしていた。
「おはよ、あれ、スミカは?」
健人は首を傾げるばかりで、口を開こうとしないので、葉子は階段を上り、スミカの部屋をノックした。
「スミカ朝だよ、起きて」
声を掛けても返事が無い。何度か繰り返すが、部屋は静まり返っていた。
「スミカ、開けるよ?」
ドアを開けるギギィという音が家に響いた。
「スミカ――」
布団にくるまるスミカがいた。目は開いているが、どこを見ているのか分からない、ふわふわした目つきだった。
「出てって」
一言だけ口にして、頭からすっぽりと布団で覆い隠してしまった。
仕方がないのでドアを閉め、一階へ降りた。
「具合悪いのかなぁ。とりあえずハムエッグ抜きで朝ご飯作ろ」
健ちゃん手伝って、と声を掛けて朝食の準備をした。すぐ後に休日出勤の為にスーツを着た晴人が部屋を出てきた。
「あれ、スミカは?」
「分かんない。何か具合悪いのかも知れない」
小首を傾げながら、パンをトースターに入れ、ダイヤルを回した。
「健ちゃんは今日バイト?」
「いや、午後から大学」
健人はヨーグルトを器に盛り付けながら言い、晴人はコンロでお湯を沸かした。