非日常へのスイッチ-5
土曜日の夜、俺とマイはトシオから夕食に招かれた。
食事はユウコが作り、いくらかマイも手伝ったようだ。
今は、夕食を食べ終わり、居間でゆっくりしている。
ユウコとマイはその後片付けをしていた。俺は、トシオと雑談をしている。
その間にも、残った茶碗をユウコが台所まで運んでいく。
ユウコはジーンズが好きなようだ。
スキニージーンズというのか、体のラインが浮き出るようなタイプのものである。
細めのウエストから豊かなヒップのラインがいかにも肉感的で、ユウコが動くとどうしてもそこに目がいってしまう。Tシャツは大きめのものを着ていて、上半身のラインはあまりはっきり見えないが、俺はその部分の豊かさももう知っている。
この体を好きにできるというのは、男冥利に尽きるだろうと思う。
だがトシオは、そういった自慢話はまずしない。基本的には、謙虚な性格をしている。
年下の俺にも、実に丁寧に話す。感情的になるようなことは、まずない。
だが、何か底知れないものを感じさせる男だった。
ユウコが結婚するような男である。きっと、只者ではないんだろう。
そして、今日はその底知れない何かを、具体的に考えさせられることになった。
「カズヤ君、どうだ、向こうで将棋でも指さないか?」
「将棋、ですか? トシオさん、どうせ強いんでしょう? 俺、そんなにうまくないですよ」
「そんなことはないよ。私も、最近始めたんだ。退職したら将棋の会所にでも通おうと思ってね」
「退職なんて。まだ、ずっと先の話じゃないですか」
「まあ、そうだね。憂鬱だが、あと20年は働かないといけないものな」
俺は、ひたすら飛車の前の歩を突いた。正直、将棋はよくわからないのだ。
トシオは何か堅陣を組もうと、あれこれ駒を動かしているようだ。
始めたばかりと言っても、もうある程度覚えたのだろう。そういう男だった。
しばらくすると、トシオの指が止まった。