平凡な暮らしの中で-7
「男の人って、あんな場所でも、出来ちゃうものなのかしら?」
「そんな事は俺に聞かず、トシオさんに聞いてくださいよ」
「トシオさんに聞いても、有耶無耶にはぐらかされてしまうの」
「俺には、あんまりそういう経験はありませんから……」
「あら、それじゃあ少しはあるの?」
「……今日のユウコさんは、意地悪ですね?」
「ごめんなさい、こういう話出来るのって、わたしカズヤさんくらいしかいないから」
ユウコの交友関係はよくわからないが、彼女の家に出入りするのはトシオの仕事の関係者と自分たち位であるようには見える。本当に、下世話な話し相手が自分しかいないならいくらか光栄な気もした。ユウコは他人からは隙がなくとっつきにくく見えてしまうのかもしれない。そんな事を思っていると、ユウコが突然足を抑えて呻いた。
「あ……いやだわ、わたしったら足攣っちゃったみたい……」
「ちょっと、大丈夫ですか?」
「準備運動が足りなかったのかしら? わたしも、若くはないわねェ」
「歩けます? 辛そうなら、おぶりましょうか?」
「ありがとう。そうしてくれるなら、助かるわ」
俺はユウコの前に屈むと、彼女は申し訳なさそうに俺の背中に乗っかった。
そのまま立ち上がり、ユウコを背負って歩き出す。
「……男の人におんぶしてもらうなんて、いつ以来かしら」
「トシオさんには、してもらわないんですか?」
「そりゃあ何度かあるかもしれないけど……だって、人を背負うことなんて、滅多にないでしょう? カズヤさんだって、マイさん何度もおんぶしたりする?」
「そう言われると、そんなに無いかもしれませんね」
「カズヤさんには悪いけど、ちょっと新鮮な気分だわ」
腕からユウコの肉感的な太ももの感触が伝わってきた。ジャージの上からなのが残念だ。
「しかし、足攣っちゃうなんてねェ……少しショックだわ」
「誰だって、たまにはあることですよ」
「そうかしら、わたし、もう若くないのかなぁ?」
「そんな事、ないですよ。だいたい、俺とそんなに変わらないじゃないですか」
「あら、4つも違うじゃない」
「4つくらい……俺とマイは5つ違いますよ」
「マイさんは、実際とても若いじゃない」
「あいつは、ユウコさんみたいに長い距離歩いたり泳いだり出来ませんよ。中身は俺達よりずっと年なんじゃないかなぁ」
「そんな事行っちゃ、マイさんに悪いわ」
「実際そうなんだから、しょうがないですよ。ユウコさんの方が若いです」
「マイさんには悪いけど、そう言われるのはお世辞でも悪い気はしないわね」
そう言うと、ユウコは体を前傾させて、俺の背中に寄りかかった。
ユウコの豊かな胸が、俺の背中に押し潰される感触がジャージの上からでもはっきり分かった。半年前、海岸の暗がりで見た光景を、ふと思い出してしまう。
ユウコの吐く息が、俺の首筋にかかって少しくすぐったい。