平凡な暮らしの中で-5
夕食を終えると、俺は習慣になっているウォーキングに出かける。
以前、ダイエットでしていたのだが、そのまま続けることにしたのだ。
よほど天気が悪い時以外は、だいたい一時間ほど歩きに出る。
歩きに出ない日は、やり残したような気になって眠れなくなってしまったりする。
マイも何度か誘ったが、面倒くさいとはっきり断られた。
彼女は若いからいいが、そのうち運動の大切さがわかる時が来るのだろう。
「こんばんは、カズヤさん。今から、出られるの?」
「やあ、ユウコさん。煮付け、すごくおいしかったですよ」
「どういたしまして。わたしも、付いて行っていいかしら?」
「ええ、もちろん」
玄関で準備していると、ユウコも今からウォーキングに出るようだ。
実は、これは彼女の真似をして始めたことだ。ある意味、ダイエットも彼女のお陰だ。
トシオの帰宅は少々不規則なので、いつも一緒に行くことはないが、時々こういう具合に一緒に歩きに行くこともあった。トシオもたまに付いてくるが、彼はかなり日頃から鍛えているようで、歩く程度では物足りないようだ。
ユウコは、上下黒のジャージに髪を後ろにまとめて帽子を深くかぶっている。
普段より色気のない姿だが、彼女が薄着で夜出歩くのは少々危険な気もした。
トシオも俺とユウコが一緒に行く分には歓迎していた。安全だからだろう。
歩いて15分程度の場所にある公園まで行き、そこで柔軟体操や軽い筋トレなどをした後に、遠回りして帰るのがいつものルートだ。
「ねぇ、さっきマイちゃん、顔赤かったけど大丈夫だったのかしら?」
「え? ああ……いやぁ、本当に何でも、ないんですよ!」
「ふぅん、何かマイちゃんの目元が少し潤んでいたし……」
「また眠かったんじゃ、ないですか? よく寝る奴だから」
そんな事を話していると、公園に着いた。
少し喉が渇いたので、水道で水を飲もうとすると、奥の暗がりから女の声が聞こえた。
くぐもった、悲鳴のような声。女が立ったまま大きな木に手をついているのだけ見える。
その女の後ろに、誰か人の気配があった。
暗くてそれ以上は見えないが、何をしているのかは想像できた。
引き返そうとすると、ユウコがそこに居たのでつい慌ててしまう。
ユウコはそのまま俺の腕をとって、その場を離れようとした。
「行きましょ。邪魔しちゃ、悪いし」
「え!? ああ……そうです、よね」
「でも、いやあね、あんな場所で」
そう言うと、ユウコは俺の顔をじっと見つめて、妖しく微笑んだ。
何かを俺に確かめるような視線。俺は、思わずユウコから目を逸らしてしまう。
ユウコは、やはり半年前の事に気づいているのだろうか。