淫習の村-1
車から降りたわたしたちは、待ち受けていた村の人たちにぐるりと取り囲まれて歓声を浴びた。あちこちの家屋や田畑からも人が次々と集まってくる。まるで芸能人でも見るようなその視線に圧倒されながら顔を上げると、まわりにいる数十人の人々は子供から大人まで年代は様々だったが、不思議なことに全て男性ばかりで女性の姿はひとりも見当たらなかった。
「これが恭介のお嫁さん? 若くて可愛らしくて……なんと良い子を見つけてきたもんだなあ」
「ほんとになあ。一時はどうなることかと思ったが、恭介がこんなに良い嫁を連れてきてくれたおかげで今年もこの村は安泰だ」
「こんなお嫁さんなら主も文句はあるまい。さあ、今夜は祝いの宴を盛大にやるからな、みんな準備に戻るぞ。恭介とお嫁さんは疲れただろうから、家に戻ってゆっくりしているといい」
ひときわ高齢に見える白髪頭の男性の言葉に、みんな慌てた様子でそれぞれの場所へと戻っていった。男性は背が低く、筋肉質でがっしりとした体つきをしている。右手をわたしのほうへ差し出し、にっこりと笑った。
「はじめまして。わたしは恭介の父親で、この村の村長をしています。たしか、瑠奈さん、でしたね? とても素晴らしいお嬢さんだと恭介から聞いていますよ」
「す、素晴らしいなんて、そんな……あの、よろしくお願いいたします」
深く頭を下げながら、強い違和感を感じた。恭介の父親だと名乗る男性は、体型も顔も何ひとつ恭介に似ているところが無かったからだ。それに、さっきの村の人たちの話……わたしが来たことで村が安泰ってどういうことだろう。『主』って何のことだろう。恭介に手を引かれて家にたどりつくまでの間、心臓は壊れてしまいそうなスピードで鼓動を打ち続けていたし、頭の中はわけのわからないことだらけでパンクしそうになっていた。
案内された恭介の実家は、さすがに村長の家と言うだけあって広い土地をいっぱいに使った大きな屋敷だった。厚みのある木材で造られた門をくぐり、太い幹を持つ松が並ぶ通路を抜けた奥に、時代劇にでも出てきそうな長い廊下とそれに沿って並ぶいくつもの部屋が見えた。