淫習の村-3
「瑠奈……瑠奈。気がついたかい?」
「えっ……?」
瞼が重く、頭がずきずきと痛む。何度か揺さぶられているうちに、徐々に意識がはっきりとしてきた。体を起こそうとするのに、腕も足もまるで自分のものではないようで、ぴくりとも動かすことができない。ぼんやりとかすむ視界いっぱいに恭介の笑顔が広がる。
「わたし……眠っていたの? 恭介、なんだか体が重くて……」
「うん、よく眠っていたよ。これから結婚式を始めるからね。そろそろ目を覚ましてもらったほうがいいと思って」
「いまから……結婚式……? でもわたし、まだ何も準備ができていないのに……」
「準備ならもうできているよ。瑠奈はみんなの前にいるだけでいいんだ。あとは父さんたちが全部やってくれるからね。心配いらないよ」
まだ覚めきらない意識の中で、わたしはなんとなく部屋のガラス戸に目をやった。そこには白い浴衣のようなものを身につけて、両手を後ろ手に縛られている女が映っていた。足首にも両足をそろえた状態で何重にも縄が巻きついている。それはが紛れも無く自分自身の姿であることに気がついて、わたしはあまりの衝撃に身を捩って叫んだ。
「な、なにこれ!? 恭介、これはなんなの?」
「騒いじゃだめだよ、瑠奈。もうそろそろみんなが集まってくる頃だ。僕の選んできた花嫁があんまり無様な格好を見せると、僕としてもちょっと恥ずかしいからね」
その恭介の言葉とほぼ同時に、廊下に面した扉が外側からがらりと開け放たれ、何人もの男たちが部屋になだれこんできた。誰もが同じ真っ黒な着物を身につけ、顔には真っ赤な鬼の面。男たちは無言のままわたしを担ぎあげ、ゆっくりと部屋を出て廊下を歩き出した。