淫習の村-2
「すごいお屋敷ね……」
「あはは、田舎だからね。広いだけでたいしたことは無いよ。瑠奈、大丈夫かい? さっきから顔色が悪いみたいだけど」
「ごめんなさい、心配させて……」
玄関のすぐ脇にある部屋に案内され、お茶を入れてきてくれた恭介の手を強く握りながら、わたしはさっきから感じている違和感や不安をぽつりぽつりと話した。恭介はそれを聞きながらゆっくりと頷き、「君がそう思うのも無理は無いよ」と言ってお茶の入った湯のみを渡してくれた。
湯のみは温かく、お茶の香りはふんわりと優しかった。
「なにしろ田舎の風習は都会とは大きく違うし、説明しにくいところもあるんだ。とりあえずこれを飲んで。少し気持ちが落ち着くだろうから」
「ありがとう……」
お茶にはわずかな苦みと香ばしさがちょうどいい具合に共存していた。初めて飲む味だな、これはこの土地で作っているお茶なのかな……そんなことを恭介に聞こうとしたのに、急激に襲ってきた眠気に口を開くこともできなくなった。
「恭……介……?」
手のひらから湯のみが落ちる。カチャン、と何かが割れる音が遠くで聞こえる。恭介の腕に背中を支えられると、もう目を開けていることもできなくなった。
「瑠奈、ごめん。もう何も考えない方がいい。夜にはすべての支度が整うだろうから、それまでゆっくり……」
後のほうの言葉はよく聞こえなかった。そのままふうっと真っ暗な落とし穴の中へ吸い込まれるような感覚を味わいながら、わたしは意識を失った。