投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『心から願うこと』
【その他 その他小説】

『心から願うこと』の最初へ 『心から願うこと』 0 『心から願うこと』 2 『心から願うこと』の最後へ

『心から願うこと』-1

いつのまにか彼が行き先も告げずに出ていってから1週間が経っていた。
私にはよく分からないけれど、きっとまたどこかで彼は彼にしかできない仕事をきっちりとこなして来たのだろう。
そんな彼を愛しく思い、自分も何か言おうと考えてみるが、先に『おかえり』は言われてしまったし、今さら『ただいま』とも言えないしで、『うん、美味しそうな秋刀魚買って来たんだ』とだけ返しておいた。(1匹しか買って来てないけど)
彼は『そう』という感じで頷き、またさっきの続きに取り掛かっている。
帰ってきたばかりなのに、もう次のコトを始めている。

いつだって彼は優しくて、いつだって細やかな視線で周囲を見つめ、そしていつだって何かに忙しい、いつも何かを抱えて私には皆目見当もつかない遠い未来を見据えている。
安らぎと幸福を以て目蓋を閉じる時があるだろうか、穏やかな、取り分け意味のない会話の快さを彼は知っているのだろうか。
たまには何もかも放り出して、何に構うコト無くそのまま眠りにつく日があってもいいのではないか。
何も知らない私はそんな無責任なコトを思い、心配を寄せる。


例えば、彼にこそ、誰かの優しさが与えられたら良いのにと思ったから。


彼は何の為にここまで頑張っているのだろうかとか、何か理想のようなものがあるのだろうかとか、何が彼を突き動かしているのだろうとか、私も彼の唯一の理解者になりたくて必死に頭を回転させてはみるが、やっぱり私には分からないことで、ただいつか彼の中で積もり続けていた何かがどっと決壊し、溢れだすことのないようにと祈り、そのためには私に何が出来るだろうかと再び思考を巡らせてみる。
その結果、やっぱり私には、美味しそうな魚を買って来たり、夕食はお気に入りの小さなテーブルを彼の好物でいっぱいにしてあげたり、天気の良い日には布団を干してあげたりすることしか出来ないという結論に辿り着いた。



頑張っている君を、どうしようもないほどに、愛しく思う。

愛しくて、仕方がない。




だから。



例えば。



君に、いつの日か一脈の優しさを。



『心から願うこと』の最初へ 『心から願うこと』 0 『心から願うこと』 2 『心から願うこと』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前