恭介のプロポーズ-1
半年前。わたしは2年間の恋愛を実らせて、同い年の須賀野恭介と結婚を決めた。
彼はいつも優しく、デートや食事に行くときはいつもわたしの希望に合わせてくれた。毎晩のように電話もかけてくれたし、ふたりの記念日にはささやかなプレゼントも忘れなかった。たとえ真夜中でも、わたしが『会いたい』と言えばアパートまですぐにやって来てくれて、見た目もすごくカッコいい。恭介と一緒に歩くと、女の子たちが羨ましげな視線を送ってくるのもちょっと自慢だった。
わたしにとって申し分ないほどの理想の彼氏。それが恭介。
だから、23歳の誕生日にプロポーズされたとき、特別に迷うことは何も無かった。
雪の降りしきる午後、ちいさなストーブひとつしかないわたしのアパート、恭介の真剣な表情。
「瑠奈、まだ少し早いと思うかもしれないけど、僕と結婚してくれるかい?」
それに続く『僕は君じゃなきゃだめなんだ』というセリフが終わらないうちに、わたしは恭介の胸に飛び込んでいた。待ち望んでいた大好きなひとからのプロポーズに、嬉しさと感動で言葉にならないまま、わんわんと泣き続けた。
恭介はいつも通り優しく、わたしの頭をゆっくりと撫でながら小さく笑った。大きな手のひらから、柔らかなぬくもりが伝わってくる。
「ありがとう。もし君さえ良かったら、来月には僕の田舎で結婚式を済ませて実家で一緒に暮らしたいんだ。仕事も辞めてもらうことになるんだけど……だめかな?」
「来月……?」
プロポーズから結婚までって、もっと時間をかけて準備するものじゃないの? 恭介の田舎で暮らすことになるの? 本当にわたしでいいの? 頭の中を『?』マークが大量に飛び交った。
「それは……かまわないわ。恭介についていく。でも、結婚式にお友達は呼びたいんだけど、いまからだとみんな日程を合わせてくれるかどうか……」