王様の命令は絶対です-8
ふと、我に返った様子の隆が、
息を切らせたまま慌ててティッシュを差し出してきた。
私はそれを黙って受け取り、軽く口の周りを拭っていると、
なんだかとても驚いた様子で隆がじっと私を見つめている。
「……な、なによ?」
「え? いや…… もしかして飲んでくれたの?」
「…………え?(あ、あれ? 普通は飲むものじゃ無かったのかな?)」
私はすこし焦りながらも、
ゴホンと軽く咳払いをしては、
「お、王様の言う事をちゃんと聞いてくれたから…… その…… ご、ご褒美よ!!!」
なんて苦しい言い訳で虚勢を張った。
しばらくきょとんとした目で私を見つめるも、
すぐに笑顔を見せては照れくさそうに頭を掻く隆。
「へへ…… 大好きだよ? 夏樹姉ちゃんっ!」
「なっ!!!」
あんなエッチな命令しておいて、
あんな破廉恥な事までしておきながら、
隆の『大好き』と言う言葉に激しく動揺する私。
「ば、ばかっ! お世辞なんかいらないわよっ」
お世辞?いったい何に対しての?
すっかり気が動転してしまった私は、
まるで誤魔化すように、慌てて隆に背を向けた。
乱れた服装を整えながら、
何度も掛け違えるブラウスのボタンに苛立つ私を、
後ろからそっと隆の両手が包み込む。
「ち、ちょっと……!?」
「お世辞なんかじゃないよ? ずっと俺…… 夏樹姉ちゃんの事……」
高鳴る鼓動、熱い身体、
隆の言葉だけが耳元でこだまする。
こんなタイミングでそんな事言われても、どう受け止めていいのかわからない。
そりゃ私だって隆に恋愛感情が無いとは言い切れないけれど、
そもそも好きでもない人にこんな事出来るわけもないけれど、
今はまだ言葉に出来るほど自分の気持ちがわからないから……
「い、いいから…… 早く服着なさいっ!!!」
私は逃げるように隆の両手を振りほどくと、
その場に立ち上がっては、
毅然とした態度で髪を掻き上げた。
隆の気持ちは嬉しいけれど、
まだ今の私にはこうして虚勢を張ることしか出来ない。
いつか、その気持ちに面と向かって答える事が出来る日が来たならば、
少しくらいは可愛い女を演じてみたい……