ニコラウス捜し-3
「ねえ行。おじいちゃんさ、捕まったら……私たちに捕まえられたとして……どうなると思う?」
「どうって」
「うん。だから、次からさ」
さあ、と行は首をひねった。
「別に悪気はないんだから、ちょっと上から怒られるくらいじゃないか」
「どうかな。お咎めはないかもしれないけど」
築行が口を挟んだ。ついでに前席に体を乗り出して来る。
「わかんない? だから、つまり……引退」
「ああ?」
「お姉ちゃんも、それが云いたかったんじゃないの」
築行は姉の顔をのぞきこんだ。郁が俯く。
「おじいちゃんの処分がどうでも、今回は行がやるしかないんじゃない」
弟の言葉に行は思わず、げ、とうめいた。築行は続けた。
「お父さんは仕事だし、おれは未成年だし」
「俺は忙しいからだめだ」
「彼女もいないくせに」
憎々しい口調の弟に、行はため息をついた。
「いるっての。だからこうして、」
「当日代わりをやりたくないから必死に探してるって云うんでしょ。薄情者。おじいちゃんの心配もちょっとはしたら?」
「何だよ急に」
何が気に障ったのか、急にぴりぴりしだした郁の態度に、行は腹を立てるより先に戸惑いを覚えた。
「知らないわよ。行なんか、あれだけ大雪に気に入られといて、鈴の音も聞き分けられないくせに」
確かに、うちで一番巨大な年古りたトナカイに、行はやけに懐かれていた。
角をつかんだり、あまつさえ背に騎乗を試みて振り落とされなかったのは、親族の中でも祖父を除けば行一人だ。
幼少期こそそれが誇らしかったが、今となっては、いやでも後継ぎはお前だと云われているようで喜べなかった。
それでいながら郁の云う通り、聞き分け能力はトナカイの世話もろくにしていなかった築行と同レベルというのが情けない。
事実とはいえ、あまりな云われようだ……とがっくり肩を落としかけて、行はふと直感的に、郁の云わんとすることに思い至った。
「郁……お前、」
「何よ」
「もしかしておじいちゃんのあと継ぎたいのか」
そんな馬鹿なと一笑に付されるかと思われたのだが、郁はそうはしなかった。
ただ、ふいと横を向いた。
兄と弟はそろって目を剥いた。郁は今どきの女子高生だ。過酷な祖父の仕事にふさわしいようには思えない。
「悪い?」
拗ねたような郁の態度に、二人は慌てて悪くないと否定した。
祖父の血を引く大勢のいとこの中でも、長男である自分が後を継ぐものと諦めていた行は、それがあっけなく回避できそうだと知って拍子抜けしてしまった。
云われてみると思い当たる節がある。偏差値の高い都市の国立大学を薦められたにも関わらず、地元の大学を受けると云い出した。幼いころからおじいちゃん子で、トナカイの世話も率先してしていた。おかげで鈴の音も聞き分けてくれて大助かりだ。
今回の事件で郁はどうやら決心を固めたようだった。