小さな来訪者-1
窓から離れたアオイは、積み重なるたくさんの箱やドレスを見つめた。
(私のためにご用意してくださったのだもの・・・)
アオイは意を決してこの部屋とティーダの部屋を繋ぐ扉をノックした。
しばらく待って返事はなかった。
ノブをまわしてわずかな隙間から隣室の様子をのぞくとティーダの姿はなかった。
(どうしよう・・・)
勝手に歩き回ることはやはりためらう。
(大人しく部屋で待っていよう・・・)
もう一度積み重ねられた箱を見ると、ひとつだけ脇机の上に置かれている綺麗な箱を見つけた。
なんとなく箱をあけてみたアオイは驚いた。
(お父様にいただいたハープとそっくり・・・)
ただの偶然なのかと思いながらハープを手に取るとクリスタルの美しい装飾までそっくりなことに気が付く。
まるで使い慣れた私物のように手に馴染んで、嬉しくなったアオイは窓の傍の椅子へ腰をおろした。
アオイの奏でるメロディは流水のように優しく城中に響いた。
城にいる誰もが聞き入ってしまうほど美しい音色はアオイの心の美しさをしめしているようだ。
「この音色は・・・ティーダ様の妃となられるアオイ姫が弾いているものか?」
「なんと美しい音か・・・心が洗われるようだよ・・・」
楽しい思い出がよみがえる。
微笑むキュリオの顔が・・・そして笑うようになったエクシスの顔が・・・いつまでも私を子供扱いするカイ・・・優しい家臣や女官たち・・・
(どうしてこんなことになってしまったの・・・?)
また涙が溢れた。
すすむ事も出来ないし、戻ることも出来ない。止まる事しか・・・今は考えられない・・・
アオイが涙を滲ませるとハープは物悲しそうに音を紡いだ。
(泣いているのか・・・)
音の調子が変わったことに気が付いたティーダは部屋へと足を向けた。
涙がとまらぬアオイの耳に(コンコン)とガラスを叩く音が入ってきた。
ハープを弾いたまま窓を見つめると・・・
「・・・ひめ・・・?」
「・・・いたっ!!お前が姫かっ!!」
「きゃあっ!!」
驚き悲鳴をあげたアオイはハープの絃を思い切りはじいてしまった・・・