異国の夜-1
「気に入ったか?」
妖艶な笑みをたたえたティーダがアオイの顔を覗きこんだ。
「風呂もあるから自由に使うといい。ひとりが寂しいなら俺が傍にいてやる・・・いつでも呼べ」
そう残してティーダは大人しく部屋を出て行った。彼なりにアオイの小さな体と心を気遣っているのだった・・・
部屋を出たティーダは扉の前で待機している女官へ指示を出す。静かにうなずいた女官は、次々と美しいドレスや装飾をアオイの部屋へと運んでいった。
「・・・よい姫に恋をされましたな、ティーダ様」
かなり高齢の大臣が孫をみるような眼差しでティーダの傍へと歩み寄った。
「悠久の姫でしたかな・・・?
ティーダ様は・・・あの姫君が幼子の
ときから想いを寄せておりましたからなぁ・・・」
「ふぉっふぉっふぉ」と、空気を和ませる笑いが優しく響いた。
「・・・キュリオとエクシスがいつ襲撃してくるとも限らぬ・・・外界の門を閉ざせ」
「おやおや、悠久の王はお許しにならなかったのですな?しかし、精霊王まで動くとは・・・」
変わらずにこやかに話続ける大臣を残してティーダは廊下を進んだ。
「・・・我が王は不器用ですからなぁ、色々と気苦労も多かろうに・・・」
長い間ティーダの成長を見守ってきたかのような大臣の言葉は誰に聞かれることもなく廊下にこだました。
次から次へと物が運ばれてきてアオイは驚きと戸惑いを見せていた。
「こちらすべてティーダ様からアオイ姫様への贈り物にございます」
丁寧に一礼して出て行こうとする女官のひとりがアオイに近づいてきた。
「こちら・・・トワ様からの贈り物でございます」
そう手渡されたのは小さな白い花をリボンでまとめた可愛いブーケだった。
「・・・トワ・・・様?」
「それでは失礼いたします」
一人部屋に残されたアオイは、さっそく小瓶に水をいれブーケをベッドの脇へ飾った。
(トワ様・・・あとでお礼を言わなくては・・・)
ベッドから離れ窓辺に立つ。
大きな月があたりを照らしている・・・。
(キュリオ・・・エクシス・・・ごめんなさい・・・)
依然答えの見つからない心の闇にアオイは押し潰されそうになっていた。そして悠久と違う異国の夜はあまりにも寂しく、冷たい影を落としていた・・・。