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花火
【女性向け 官能小説】

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プライベート・ビアガーデン-4

「部長はオレらが付き合ってると思ってたらしい」

新谷の言葉に驚いて、思わずから揚げを落としそうになる。

「はぁぁぁ?何でですか?」

どこをどうしたら一体そんな話になるのだろう。

「何でだろうなぁ?進藤、迷惑?」

普段のからかうような表情じゃないのが、ちょっと気にかかった。

「え?」

…そんなわけない、って言っていいものだろうか。

「むしろ、新谷さんのほうが迷惑なんじゃないですか?」

「オレ?オレは…」

また迫力のある音とともに、次々に打ち上げられていく花火。
聞き取れなくて、聞き返すと、ふっ、と新谷の顔が真横に近づいてきた。

「進藤さえ迷惑じゃなきゃ、既成事実にしたい」

耳元で囁かれたコトバの意味がなかなか理解できない。

「あぁもうっ、このニブチンがっ」

しびれを切らした新谷に頬をつねられた。

「痛いっ。に、ニブチンってひどっ」

「ひどいのはどっちだよ。人が真剣に告白してるのに。迷惑か?迷惑じゃないのか?ちなみにオレのチンコは鈍くないぞっ」

「さっ、最低!真剣に告白してる人の言葉ですか?って、え?告白?」

「そうだよ、オレは進藤が好きだ。異動先に連れて行きたいくらい好きだ」

「う、ウソ…」

「ウソついてどーすんだよ。で、意外と天然娘な結(ユイ)ちゃんは迷惑なんですか?迷惑じゃないんですか?」

…どうしてこの人は一言多いんだろう。
 でも知ってる。
 それがこの人の照れ隠しだって。

「…迷惑…じゃないです」

「ほんとに?」

「…ほんとです。ずっと新谷さんのこと好きでした。最初はすごい怖いって思った時期もあったけど…でもいつからかずっと新谷さんのこと…」

「なんで泣くんだよ」

「え?泣いてない…あ、泣いてる…」

新谷に指摘されて初めて気がついた。
そうか、花火の光がにじんで見えるのは、涙のせいだったんだ。
隣の椅子から新谷の手が伸びてきて、手を握られた。

「異動も悪いもんじゃないな。そりゃ毎日進藤の顔見れないのも、からかえなくなるのも面白くないけどさ」

…面白くないって、人をなんだと思ってるんだ?

「そんな怖い顔で見んなよ。せっかくの美人が台無しだ」

私の視線に気づいて、新谷が苦笑いする。
でも次の瞬間、また優しい表情に戻った。

「ずっとアピールしてきたけど、ニブチンで天然のお嬢さんはオレの気持ちなんて気づいてくれないし。ストレートに言って、玉砕したら仕事しづらくなるほうが怖くてずっと言えなかった」

…ずっとアピールしてくれてたんだ。
 って気づかなくちゃ意味なくないか?
 ってどの辺りがアピールだったんだろう。
 もしかして私、本当に鈍いのか? 

「新谷さんだって、私の気持ち気づいてなかったじゃないですか」

「まぁそうだな。でも異動が決まって部長に断られた時に決めたんだ。今日花火観ながら告白しようって。まさか進藤が好きって言ってくれると思わなかったけど」

「…なんでそう思うんですか?」

「だってオレきっついことばっかり言ってたし、嫌われてんのかと思ってた。飲みに誘えばついてくるけど、それは仕事を円満に進めるためなのかなぁって」

「新谷さんのこと嫌いだったら、行きませんよ。今日だって誘ってもらえてすごく嬉しかったんです」

「よかった…」

しばらく無言で、手をつないだまま真夏の夜空を彩る花火を眺めていた。

「来年も一緒に観ような」

「はい…」

最後の花火が夜空に消えた瞬間、私たちは初めてのキスをした。
唇と唇がふれるだけの、一瞬だけのキス。

「まだビール、売るほどあるぞ」

静寂と余韻を楽しんでいたのに、新谷がいきなり現実に引き戻す。
お互い5、6本は飲んだんじゃないだろうか。

「まだ売るほどあるってどんだけ用意したんですか?」

「ビアガーデンに招待するって言っただろ?まだこの中に3、4本あるし、冷蔵庫の中にもあるぞ。ビールに飽きたら缶チューハイとかカクテルもあるけど?」

新谷も私も、酒豪とかザルとか表現される部類の人間だ。

「ほんとはビールサーバとか借りようかと思ったんだけど。炭酸系辛かったら、日本酒も焼酎もワインもある」

「どんだけ飲む気なんですか?」

「失恋した時のことを考慮して買っといた」

「またそんな冗談言って。でも、これ以上飲んだら帰りの電車辛くなりそうなんで」

「明日何か予定あるのか?」

「悲しいことに何もないですけど…」

「じゃぁ、帰るなよ。どうせ今帰っても電車すごい混んでるだろうし、ここにいろって…一緒にいて欲しいんだ」

再び私の手を掴んだ、いつになく真剣な表情の新谷に、ただ頷くだけの私。
でも頷いた私を見て、新谷がホッとしたような顔をする。

「花火も終わっちゃったし、ウチん中で飲みなおすぞ。二次会だ」

「はい」

濡れた足をタオルで拭き、クーラーボックスとすっかり空になったお弁当箱を持って、部屋の中に戻る。
来た時に麦茶をいただいたソファに座るように促され、大人しく従った。

「進藤、何飲む?」

「炭酸のきつくなさそうなカクテルを」

「何?腹苦しいの?」

ビールのせいなのか、浴衣のせいなのか、確かにちょっと苦しくて。
でも新谷が私のために用意してくれたと思うと、まだ脱ぎたくない。
あいまいに笑った私の隣に、新谷が腰を下ろす。

…きょ、距離近いって

電車で隣に座ってもこんなに緊張しないのに、なんだろう、この緊張感。
心拍数が一気に跳ね上がったような気がする。

「脱がせてやろうか?」

耳にふれるかふれないかの距離で新谷が囁いた。

「っていうか、脱がしたい。ダメ?」


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