ケンジの妄想タイム-1
ケンジ高校二年生の7月。
「洗濯物、ちゃんと自分で干しなさいよ。」母親が言った。
「わかってるよ。」ケンジは洗濯が済んだ自分の衣類を入れた籠を抱えて階段を登った。
自分の部屋に入って灯りをつけた後、ベランダに出て、二本の竿の片方に下がっている物干しハンガーに靴下や下着、部活で使った水着を吊し始めた。物干し竿には直接自分用のタオルや制服のズボン、そしてハンガーにかけて制服のシャツや肌着として使っている、かなり着古した黒いTシャツを干した。
「一人分でもけっこうあるな、毎日毎日・・・。」ケンジは面倒臭そうに独り言を言った。
干し終わってふとベランダの奥を見た。ケンジの部屋の隣は双子の妹マユミの部屋だ。二人の部屋の外にあるベランダは一続きなので、ベランダにはケンジとマユミの洗濯物がいつも並んで干されている状態だった。
マユミの部屋の灯りは消えていた。階下からシャワーからほとばしる水の音が聞こえてきた。
ケンジは隣の薄暗いベランダにすでに吊されている彼女の洗濯物を見た。妹がいつも着ている制服やいつも持ち歩いているハンカチが下がっている。しかし、普段マユミが身につけているもののうち、いつもは見ることができないものも下げられていた。ケンジの目はその中でも特に一番小さな白い布に惹きつけられていた。ケンジの鼓動がだんだん速くなっていった。
もう一度ケンジは耳をすました。下の浴室のシャワーの音はまだ続いている。彼はゆっくりと、音を立てないようにマユミの洗濯物に近づいた。そして彼女が今日穿いていたはずのその白い布におそるおそる鼻を近づけた。洗剤と柔軟剤の甘い香りがした。ケンジの鼓動はますます速くなった。
ケンジはごくりと唾を飲み込み、靴下の隣に下げられているその白いショーツをピンチから外し、手に取った。その時、階下の浴室のドアが開く音がした。ケンジは慌てて自分の部屋に駆け込み、灯りを消した。
ケンジはマユミの白いショーツを手の中に握りしめ、ベッドに息を殺してうつ伏せになった。鼓動はまだ収まっていないばかりか、息まで荒くなってきたことに、ケンジは少なからず狼狽した。
マユミが階段を上がってくる音がした。そしてケンジのドアをノックした。「ケン兄、シャワーいいよ。」
ケンジはあまりの動悸の激しさに、とっさに返事ができなかった。
マユミはそっとドアを開けた。「ケン兄?あれ、もう寝ちゃったの?」
「わ、わかった、マユ、行く、行くよ。」ケンジは慌てて握っていたショーツを枕の下に隠し、身体を起こした。
「どうしたの?電気消しちゃって。部活で疲れた?」
「あ、ああ、ちょっとだけな。」
「早く済ませてね。もうすぐパパも帰ってくる頃だから。」マユミはそう言ってドアを閉めた。
シャワーを浴びた後、ケンジは急いで階段を登った。そして部屋のドアを開けた。さっき自分が出て行った時と同じ状態だった。ケンジは胸をなで下ろした。彼は隣のマユミの部屋のドアをノックした。「マユ、」
「なに?」中から妹の愛らしい声がした。
「あ、開けていいか?」
「いいよー。」
ケンジはドアを開けて頭だけを部屋に突っ込んだ。「お、おまえさ、今日は何時に寝るんだ?」
「え?」
「い、いや、いつまで勉強するのかな、って・・・。」
「なんでそんなことを聞くの?ケン兄。」
「いや、な、何となく・・・。」
「明日、部活の朝練があるから、いつもより早く寝るつもりだけど。」
「そ、そうか。じゃ、おやすみ。」
「おやすみって、まだ8時だよ?」
「お、俺、疲れたから寝る。起こさないでくれよ。」
「なにそれ。あたしが寝てるケン兄を起こしたりしたことないでしょ。どうしたの?変だよ、今日。」
「と、とにかく、静かに眠りたいから、そっとしといてくれ。」
「変なの。」
ケンジはドアを閉めた。