ケンジの妄想タイム-3
明くる朝、いつもよりずいぶん早く目が覚めたケンジは、それから眠れなくなり、しかたなくベッドから降りた。マユミのショーツはベッドの布団の下に隠した。
階下に降りるとマユミが朝食をとっていた。ケンジは一瞬足を止めて、少し赤面した。
「あれ、ケン兄、早いね。おはよ。」
「あ、ああ、おはよう。」
顔をいつになく乱暴にごしごしと洗った後、ケンジも食卓に向かった。いつものマユミの横に座ったケンジは少しだけ椅子をマユミから遠ざけた。
「ケン兄、昨夜、部屋で何か叫んでなかった?」
「え?えっ?」
「あーとかうーとか言う声が聞こえたけど・・・。」マユミがミニトマトを口に運びながら言った。
「そ、そんなこと言ってないよ。幻聴じゃないか?」
「そうかなあ・・・・。でも夜中に窓ふきしてたよね、ケン兄。」
「えっ?」
「洗濯物が落ちてたから、拾って干し直そうとベランダに出た時、ケン兄が窓をティッシュで拭いてたの見たよ。」
「あ、ああ、あれな。あれはむ、虫を叩きつぶしたんで、拭いてたんだ。」
「そうか。そうだったんだ。」
ケンジはオレンジジュースを一気に飲み干して言った。「せ、洗濯物って、何が落ちてたんだ?マユ。」
「靴下が片方ね。」
「えっ?く、靴下?」
「そうだよ。なに驚いてるの?」
「い、いや、昨夜は風も強くなかったのに、どうしてかなーって、あは、あはは、あはははは・・・。」
「変なケン兄。」
「どうしたの?」母親が食卓にトーストを運んできた。「なに二人で仲良く語り合ってるの?」
「ママ、ケン兄昨夜からちょっと変なんだよ。」
「変?」
「そう。なんだか、ずっとそわそわしてるような・・・・・。」
「ケンジはいつも変でしょ。私にはいつもと変わらないように見えるけどね。」
「そ、そうだぞ、マユ。母さんの言うとおりだ。俺はいつもと何も変わらない。」
「わざわざそう言うところが変だよ。」マユミは壁の時計を見た。「あ、もう行かなきゃ。」
「ごちそうさま。」マユミは立ち上がって階段を登っていった。ケンジはそんな妹の後ろ姿を、口を半開きにしてじっと見つめて続けた。
「そんなに妹が気になるの?ケンジ。」
「え?い、いや・・・。」ケンジは真っ赤になってトーストにかじりついた。「母さん、」
「なに?」
「マユの好物ってチョコレートだよね。」
「もう好物なんてものじゃないわよ。慎重に隠しておかないと、すぐに見つけられて食べられちゃうんだから。」
「ど、どんなチョコレートが好きなのかな、中でも。」
「何?あんた妹にチョコレート、プレゼントする気?」
「い、いや、普通女子高校生って、どんなチョコレートを好むのかな、って思ってさ。一般論だよ、一般論。」
母親はにやりとして言った。「あんた、好きなコでもできたの?」
「え?ま、まあ、そんなとこ・・・かな。」ケンジは赤面した。
「マユが好きなのは二丁目の入り口にあるメリーのアソート。」
「メリー?」
「そ。買ったりしたらもう、あっという間に食べ尽くされちゃう。」
「そ、そうなんだ・・・・・。」
「ま、女の子はチョコレートであればどんなものでも喜ぶんじゃない?」
「そ、そうだね。」ケンジは箸をテーブルに置いた。「ごちそうさま。」
丁度その時、制服姿のマユミが階段を降りてきてちらりとケンジを見た後、玄関に向かった。「行ってきまーす!」
※本作品の著作権はS.Simpsonにあります。無断での転載、転用、複製を固く禁止します。
※Copyright © Secret Simpson 2012 all rights reserved