チケット-1
好きです、僕と付き合ってください。
放課後、屋上に彼女を呼び出し、ようやくそれだけ言うことが出来た。
彼女の名は、サクラと言う。僕と同じクラスの女子だ。
少し眼尻のつり上がった、勝ち気な瞳。
それでいて、どこか妖艶さも感じさせるその瞳が、今は少々戸惑っているように見えた。
これは一体どうしたものかと、サクラは視線をあちらこちらに彷徨わせている。
クラスの中ではやや長身の彼女の体が、今は少し身をかがめて小さく見えた。
屋上へ吹きおろしてくる強い風で、彼女のなめらかな黒い長髪が一瞬なびいた。
サクラはホッケー部の部長でもある。
女子ホッケーというのはかなりレアな部活で、県内では存在をあまり聞かない。
それでも、彼女は部長として真剣に取り組んでいるようだ。
晩秋にもなり、まだ小麦色のままの肌がその証拠だろう。
その肌色は水を弾くような瑞々しさがあり、そのスタイルは健康的で彼女の一挙手一投足に躍動感があった。そういう彼女から感じる生命力に、僕は魅かれたのだ。
もちろん容姿だけではない。性格も好みなのだ。
だが、性格は漠然としか知らない。優しくて、責任感があって、快活で。
まだじっくり会話したことがない。無論、一緒に遊んだことなどもない。
もっと詳しく、知りたい。それでなけなしの勇気を振り絞り、告白した。
僕は、どれをとっても平均前後に来るような、平凡で地味な男である。
少々真面目なことが、ささやかな取り柄だろうか。
正直言って、勝算は、あまりなかった。
だが既に高2も折り返しを過ぎ、来年は受験もある。残された時間は多くはない。
悔いを残したくなかった。彼女の答えを知っておきたい。
サクラはほんの少し微笑んで、ようやく口を開いた。
「好きだと言ってくれて、ありがとう。でも、明日まで、考えさせてくれるかな?」
突然の告白である。
彼女が即答しかねるのは、当然だった。僕はもちろんと了承する。
しかし、考えるという事は、少しは脈があるのか?
本当に嫌なら、すぐに断られるはずである。明日、彼女はどういう答えをするのか。
ほんの少しだけだが、期待したい気分になった。
サクラは、僕を値踏みするように見つめ、まだ微笑んでいる。
この時まだ僕は、彼女の笑みの意味を分かっていなかったのだ。