銀河の下で-2
「楽しかったね。」リビングのソファに座った真雪が、タオルで髪を拭きながら言った。
「うん。とっても。」龍も真雪の隣に腰を下ろした。「何か飲む?」
「うん。」
「何がいい?冷たいものがいいよね?」
「そうだね。」
その時、ミカがカップを手にやってきた。「ほら、お前飲みかけだぞ、コーヒー。」
「あ、ごめん。ありがとう。」
「真雪、カフェオレ、作ってやろうか?せっかく土産にミルク買ってきてるからさ。丁度コーヒーも淹れたところだし。」
「いいね。あたしが作るよ、ミカさん。」タオルを首に掛けたまま真雪は立ち上がりキッチンに入った。「みんなも飲むでしょ?」
「悪いね。」ミカが言った。
「母さんも年上なんだよね、父さんより。」龍が訊いた。
「2歳上だ。」
「どんなものなの?年下の彼氏って。」
「そうだな・・・。世話を焼きたくなる、って言うか、甘えさせたくなる、って言うか・・・・。」
「父さんもそんな?」
「時々そんな感じになることはあるね。でも、それはあの人の性格かも。すっごく照れ屋だしね。そういうところはあたし好き。」
「そうなんだ。」
「大胆不敵で威張ってるやつはむかつく。」
「そりゃあね。」
「父さんはその対極だね。でも、もっと大胆になったら?って思うことも時々あるよ。」
「母さんが大胆だから釣り合いがとれてるんだと思うけどな。」
「そうかな。」
「二人とも大胆だったら、僕、気の休まる暇がないから。」
「そりゃそうだ。」ミカは笑った。
「できたよ。」真雪がトレイに4つのボウルを載せて持って来た。「ケンジおじもこっちに来なよ。」
「わかった。今行く。」寝室から声がした。
「このカフェ・オ・レ・ボウルも買ってきたの?」
「ああ、あの牧場でね。」
「なかなか本格的だね。」
「へえ、これ『カフェ・オ・レ・ボウル』って言うんだ。何か変。」龍がそれを持ち上げて言った。
「ねえねえ、」龍の横に座り直した真雪が言った。「あたし、やってみたいことがあるんだけど。」
「どうした?真雪、目が輝いてるぞ。」
「龍をいじっていい?」
「いじる?そんなことは自分たちの部屋でやれよ。」
「ミカさんやケンジおじにも見てもらいたくてさ。」
「何なんだよ、一体・・・。」龍がボウルを口に運びながら言った。
「脱いで、龍。」
「ええっ?!」
「上だけでいいから。お願い。」
「な、何する気なんだよー。」ぶつぶつ言いながら龍は着ていたスリーブレスのシャツを脱いだ。
真雪は自分のポーチから銀色の小さな箱を取り出した。「立って、龍。」
「え?うん・・・。」
龍を立たせた真雪が手に持っているのは二枚の絆創膏だった。
「な、何だよ、それ・・。」龍が怪訝な表情で言った。真雪はそれを龍の二つの乳首に貼り付けた。
「は?何これ?」龍が言った。
「ついでにここにも。」真雪はもう一枚絆創膏を取り出して、龍の右頬に貼り付けた。
「・・・・・・・。」龍は困ったような顔をした。
「やった、やった!」真雪ははしゃいだ。
「真雪はショタコンだったか。」ミカがカフェオレの入ったボウルを手に取って言った。
「な、なんでこれがショタコンなんだよ。」
「知らないの?龍、少年の乳首に絆創膏って言ったら、BLの超定番スタイルじゃん。」
「意味がわかりませーん。」
「年下やんちゃ系好きっ!萌えるっ!」真雪はいきなり龍に抱きつき、その唇に自分の口を押しつけた。「むぐ・・、んんん・・・。」
「何やってんだ、二人で。」ケンジが一枚のA4サイズの写真を持ってリビングに入ってきた。そして抱き合っている息子と姪を見て頬を赤らめた。「お、お前ら、人目も憚らず・・・・・。」
「そうだそうだ。何もあたしたちの目の前でやんなくても。上でやれ、上で。」ミカが笑いながら言った。
「人目のあるところでこんな格好させれば、龍はきっと照れて赤面するでしょ?」
「あ、当たり前だよ。」龍は全身赤くなってソファに座った。
「その様子が見たかったんだ、あたし。」
「へんなシュミだな。真雪。」龍がぼそっと言った。
「龍が年下でよかった。」
「そのマイペースな大胆さ、何だかミカとそっくりだな、真雪・・・。」ケンジがぽつりと言った。
「龍との釣り合いがとれてていいじゃない。」ミカが言った。
「ところで、その写真、何?」ミカが訊ねた。
「ああ、さっきのだよ。ほら、真雪にやるよ。」
それは草原をバックに、オールヌードで微笑んでいる真雪の姿だった。
「わあ!龍、きれいに撮れてる!うれしい、ありがとうね。」真雪はその写真を手に取ってはしゃいだ。「また撮ってね。」