羽根を無くした鳥-1
目が覚めた。いや、目が覚めてしまった。これは俺にとって最悪なことだ。だって、またつまらない日常と呼ばれるモノが始まるんだ。最悪だ。でも今日は特別。
本当は永遠に眼なんか醒めてほしくない。そうすれば生きると云う面倒な事をやらずに済む。でも死ぬ理由も生きる意味も無いから俺は今迄生きてきた。ただ何となく。それも今日迄。
毎日が同じに見える。いつからだったっけこんな事を考えだしたのは。覚えてはないけど。俺は何か間違ったのか。それは歩いていく路?それとも履いていく靴?
どうでもいい。そんな事。ただ今日は特別。この世界から飛び立つ。今日また目が醒めたら今度こそそうしようと決めていた。
俺は今日、鳥になる。
人々は是を『自殺』と呼ぶけど俺は違う。自ら殺したりしない。自ら解放するんだ。自分を。この息苦しい世の中から。
俺は向こう側に行くべきなんだよ。絶対にそう言い切れる。俺は解ってる。
随分と高い所へ来た。クスリも一杯飲んだ。俺は何にも想わない。下を視る。畏れはない。むしろ喜びさえ感じていた。手を広げて落ちていく。今迄に味わった事の無い、爽快感が躰を包む。風が心地良い。次の瞬間、グシャッという音と共に躰が地面に叩きつけられる。眼を開けると脅えた顔をした女性と目が合った。その人の悲鳴が聞こえる前に俺は眼を閉じた。
俺は。
墜ちていく。深く。どこまでも深く。沈んでいく。暗い。底がない。ずっと、墜ちていく。時が無い。分からない。何も。見えない。何も。怖い。本当に何も無い。何も変わらない。
気付いた。
此処にハ ....
来ナい方ガ 。
ヨカッタ。...。