撮影会、大人の夜-3
ロッジの宿泊棟に囲まれるようにして、その大きなレストランホールはあった。外はすっかり暗くなり、雲一つない空には街の中では決して見られないたくさんの星たちがきらめいていた。ホールの天井は大きなガラス張りになっていて、見上げればそんな降るような夏の星空が、まるで絵のようにホールを見下ろしていた。
7人は大きなテーブルを囲んで座っていた。各自に生野菜とオードブルとスープが配られ、グラスに飲み物が提供された。
「ミカさんはもうワイン?」健太郎が言った。
「ビールじゃないんだ。」龍が言った。
「もう十分飲んだ。」ミカが言った。
「朝から車の中で一本、ここに到着して一本、昼ご飯の時にジョッキ一杯、さっき風呂上がりに一本。」ケンジが呆れたように言った。「去年のようにべろべろになるなよ。頼むから。」
「わかってるよ。それに、今夜は若いコを相手にしなきゃいけないんだ。気を確かに持っておかなきゃ。」
「若いコ?」真雪が訊いた。
「気にするな、真雪。」ミカは笑った。
「たぶんケン兄だよ、マユ姉。」隣に座った龍が真雪に囁いた。
「えっ?!もしかしてケン兄、去年のあれから、ミカさんと続いてるの?」真雪も龍に囁き返した。
「そうらしいね。」
真雪は上目遣いで何か考えている風だった。
「どうしたの?マユ姉。」
「え?いや、ケン兄、最近好きな人に告白する前に破れちゃったんだよね・・・。」
「そうなの?」
「うん。」
「傷心のケン兄か・・・・ちょっと同情しちゃう。」
「ミカさんが慰めてくれる、ってことかな。」
健太郎は彼らの向かいのミカの横に座って落ち着かない風情だった。
「どうしたんや?健太郎。顔が赤いで。それに妙に緊張してへんか?」真雪の隣に座ったケネスが言った。
ミカの隣のケンジが言った。「だいたい原因はわかるぞ、俺。」
「え?何?なに?どうしたんや?」
「何かあったの?」ケネスの横のマユミも言った。
「牛の乳搾りの時に、龍に真雪へのノロケを聞かされた後、」ケンジが説明し始めた。「龍に無理矢理風呂に連れて行かれて真雪のハダカを見せられ、」
「へえ!」ケネスがにやにやしながら言った。「まだあるんか?」
「とどめは、真っ昼間の草原での真雪の撮影会につき合わされた。」
「わっはっは、龍と真雪に振り回されっぱなしやった、っちゅうわけやな。」
「なに?もうすでに限界か、健太郎。」ミカが隣の健太郎の肩に手を回した。
健太郎は小さくこくんとうなずいた。
「よしよし。」ミカは大きくうなずいた。
「事情を知らなかったとは言え、僕たち、ケン兄を刺激しすぎたかも。」龍が申し訳なさそうに言った。
「そうだね・・・。」
テーブルの中央に巨大な牛肉の塊が登場した。
「すげえ!」龍が叫んだ。
「これがここのメインディッシュよ。」マユミが言った。
「よし、切り分けよう。さあ言え、どれくらい切って欲しい?」ケンジが立ち上がり、大きなサービスフォークとナイフを手に持って言った。
「僕3センチ!」
「あたしは1センチぐらいでいいな。」
「健太郎は?」
「お、俺、少しでいい。あんまり食欲ない。」
ぱしっ!「ばか!」ミカが健太郎の後頭部を平手でひっぱたいた。
「な、何するんだよ、ミカさん。」健太郎はひっぱたかれた後頭部をさすりながらミカを睨んだ。「痛いじゃないかっ!」
「スタミナつけておかなきゃ、息切れするぞ!」
「ほんま、ミカ姉は言い方が露骨やな。相変わらずロマンティックなムードからはほど遠い。」ケネスが笑いながらビールをあおった。「龍を見てみい。今夜のためにもりもり食っとるやないか。」
「そうよ、健太郎、遠慮しないで食べなよ。」
「なにが『そうよ』なんだよ、母さんまで・・・。」
「5センチの厚さぐらいに切ってやって、ケンジ。」
「わかった。」
「滅多に食べられないんだぞ、こんな牛肉。」
「わかったよ、もう!」健太郎はフォークとナイフをひっつかんで、ケンジがどかんと皿に載せたその肉をがつがつと口に入れ始めた。