牧場と露天風呂-6
「マ、マユ姉、先に入って。」龍が家族湯のドアに『入浴中』のプレートを掛けた後、中に入って鍵を掛け、もじもじしながら言った。
「どうしたの?」
「い、いや、やっぱりさ、まだ、ちょ、ちょっと恥ずかしいかなって・・・。」
「ふふ、龍くん純情だね。当たり前か、中二だもんね、まだ。」
「マユ姉、やっぱり一人で入る?僕、部屋に戻っていようか?」
「あたしとお風呂に入るの、いや?」
「いやじゃない。いやじゃないよ。僕だっていっしょに入りたい。でも、やっぱり今は刺激が強すぎる、って言うか・・・・。」
「変なの。この前いっしょに入ったじゃない、うちで。」真雪は小さなため息をついた。「じゃあさ、ちっちゃかった頃のことを思い出して、親戚モードでいっしょに入ろ。」
「親戚モード?」
「そう。」
龍は少し考えてから言った。「じゃ、じゃあ、ケン兄も呼ぼう。」
「え?」
「いつも三人で入ってたじゃん、お風呂。」
「この歳でケン兄、あたしといっしょにお風呂に入ってくれるかなー。」
「マ、マユ姉は平気?ケン兄といっしょにお風呂入るの。」
「お風呂に入るぐらいなら大丈夫だよ。いきなりおっぱいに触られたりしたらいやだけど。」
「いや、ケン兄がそんなこと、するわけない・・・。」
真雪は笑った。「とにかくあたしは構わないよ。」
「ほんとに?じゃあ、連れてくるね。待ってて。」龍はドアを開けて飛び出していった。
真雪は着ていた服を脱ぎ去り、鼻歌交じりに一人で浴室に入っていった。そして掛かり湯をした後、ゆっくりと足を湯に浸した。「半分露天風呂なんだ、家族風呂にしては広くて気持ちいいな。」真雪は肩まで湯に浸かってほっとため息をついた。遠くになだらかな峰の稜線が連なっている。まぶしい夏の空のあちこちに入道雲が発達し始めていた。
「やだよ、俺、」ドアの向こうで声がした。「お前らだけで入ればいいじゃないか、なんで俺まで。」
「頼むよ、ケン兄、僕だけじゃなんか恥ずかしくて。」
「俺だって恥ずかしいよ。なんでわざわざお前と二人揃って恥ずかしい思いをしなきゃいけないんだ。」
龍は無理矢理健太郎を中に入れて鍵を掛けた。
「助けてよ、ケン兄。この通りだから。」龍は健太郎に手を合わせた。
「ま、まったく、なんで俺がこんなことを・・・・。」健太郎が赤くなってぶつぶつ言いながら、それでも服を脱ぎ始めた。
「マユ姉、入っていい?」
「いいよー。」
健太郎と龍は自分の腰にタオルをしっかりと巻き付け、すでに身体中を真っ赤にして浴室に入ってきた。
「マ、マユは平気なのかよ。」
「あたしの着替え、結構頻繁に見てるケン兄にしては、意外な反応だね。」湯に浸かったまま真雪は振り向いて言った。「あれ?、何?、その手に持ってるの。」
健太郎の手に小さなプラスチックの箱が握られている。
「防水ケース。中身は鼻血止めのティッシュ。」健太郎が無愛想に言った。「俺、お前の着替え、そんなに頻繁に見てないからな。変なこと言うなよ。龍が誤解するだろ。」
「マユ姉って、意外に大胆だってことがわかってきた。」龍が言って湯に浸かった。真雪からできるだけ距離を置いて首だけを出した。
「ねえねえ、龍くん、こっちに来てみなよ。山がきれいだよ。そこからだとよく見えないでしょ?」
「え?う、うん。」ためらいながらも、龍は湯に浸かったまま真雪の方へ移動し始めた。
健太郎は真雪に背を向けて湯に浸かっていた。
龍は真雪の勧める所までやって来た。「ほんとだ、いい眺め。」龍は膝立ちをしてその風景を眺めた。へそから上が湯の上に現れた。
「龍くんの身体って、ほんとに逞しくて立派になったね。去年とは大違い。ケン兄を一回り小さくしたぐらいかな。」
「え?俺?」健太郎はとっさに振り返って真雪を見た。その時、真雪は湯の中で立ち上がり、龍の肩に手を置いた。真雪の美しいうなじからなだらかな曲線が背中を走り、豊かで白いヒップまで続いていた。その何もかもが湯から現れた。
ぶっ!「やばいっ!」健太郎は叫んで鼻を押さえた。例によって血が垂れ始めた。「ティッシュ、ティッシュっ!」彼は慌てて防水ケースを手に取り、中にあったティッシュを取りだし、鼻に詰めた。
「龍くん。」真雪は背後から手を龍の胸に伸ばした。そして優しくさすった。
「あ、マユ姉・・・。」
健太郎は叫んだ。「お、俺もう上がるっ!だめだ、このままでは失血死しちまうっ!」ざばっと湯から上がった健太郎は、身体を拭くのもそこそこに、浴室を出て行った。