11回目の結婚記念日-1
あれから1年が過ぎた。
11回目の結婚記念日、そして妻の1回目の命日。
父親を発症箇所さえ違えど同じ病気で亡くした妻が別れを決心した気持ちが、今ではなんとなくわかるような気がする。
月命日には妻の実家に、元義母を見舞い、昔話をして過ごす。
一緒に戦う、という選択肢を妻に与えてやることの出来なかった自分のふがいなさを悔やんだが時期もあったが、悔やんでももう妻は戻ってこないのだ。
妻の後を追うように、ラブも逝ってしまった。
今頃空の上で妻と一緒に走り回っていることだろう。
いつか、自分もそこにたどり着くのだろう。
もし再び会うことが出来たら。
もう一度3人で暮らすことができるだろうか。
『こっちに来る前にちゃんとまた恋をして、結婚して、今度こそご両親にお孫さん見せてあげてよね』
妻の墓前で手を合わせていたら、そんな声とラブの鳴き声が聞こえた気がした。
「友樹さん、大丈夫?」
思わず苦笑いしたオレに、隣で手を合わせていた榊さんが声をかけた。
事情を話すと、
「紗智子なら言いかねないわ」
と笑ってくれた。
隣には背の高い若い男性が涙目の榊さんを気遣うように優しく寄り添っている。
「で、決心してくれました?」
彼女に婚姻届の証人になって欲しい、と頼まれたのだ。
離婚した人間などが縁起でもないと断ったのだが、紗智子の代わりにどうしても、というのだ。
「本当にいいんですか?」
隣に立つ彼にも確認すると、事情を知っているのだろう。
彼もよろしくお願いします、と頭を下げた。
『トモ、お願い』
洗濯でもお願いするような、妻の声が聞こえた気がした。
「わかりました。お引き受けします」
「結婚式にもいらしてくださいね」
「えぇ。これで行けませんって言ったら紗智子に怒られそうですね」
妻の墓前で未来の夫婦と笑い合った。