第1章-7
次の日、美紗子は百合子から教わった店へ電話してみた。
「もしもし・・」
受付らしい女が出た。
「はい、ドリーム企画ですが、どなたですか?」
「あの・・お友達の百合子さんから聞いたのですが、岩崎美紗子といいます」
「あぁ、百合子さんね、それで応募したいんですか?」
「はい、もし私に出来ることでしたら、それで説明を聞きたいと思いまして」
「そうですね、ではこちらに来て頂きましょうか」
「はい、あの・・・いつ行けば?」
「今からでも、良いですよ」
「わかりました、伺います」
美紗子は、電話の女からその場所を教えられた。
そこは、美紗子の家からバスと電車を乗り継いで1時間くらいの場所にある。
その日、美紗子は、いつもよりは少しましな服と化粧をしていた。
美紗子はその駅で降りたことがない。
言われた場所を、メモした地図を便りにその建物を探し当てた。
三階のそこは、ちょっとした事務所のようで、言われた階は二階である。
そこは想像したよりも、普通の建物だった。
階段を登りながら、美紗子の胸はドキドキしていた。
今にも心臓が止まりそうになる。
途中で止まり、引き返そうか・・とも思った。
しかし、その足は戻れなかった。
無意識に足は階段を登っていたのだ。
美紗子は、その階で「ドリーム企画」という看板をみつけ、一息ついてノックした。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
美紗子は、派手な服を着た、いかにも水商売の女という感じの受付の女を見た。
そっと見渡すと
部屋には机が一つと、その上には電話が一つあるだけで簡素である。
それ以外に美紗子が驚いたのは、
部屋の中には沢山の女達の写真が飾られていた。
後ろにはスチール製のラックがあり、雑誌やファイルが無造作に5,6冊入っている。
美紗子は後で知ったのだが、そのファイルには、
店に来た客が品定めをする為の、
登録された女達の履歴や顔写真等が貼り付けてあるらしい。
その中の何枚かの写真には、
舞踏会で貴婦人達が身分や顔などを隠す為に使うマスクをしていた。
いかにも怪しい雰囲気である。
ここの女達は大学生やOL、また一般の主婦達もいて、
初めての客には素性を明かさない為である。
ここにいないときには、彼女達は素の状態に戻るのだ。
その部屋の奥に、もう一部屋があり
そこで女達がたむろして、客を待っていることを後で知った。
女達は、本を読んだり、おしゃべりをしたりして
思い思いにひたすら客や、客からの連絡を待つのである。
これは現代版の女郎部屋といっても不思議ではない。
また、家で待機し、連絡によって客が待つ場所へ直に行く女もいる。
しかし、その場合でも、客から受け取った金は店に渡して、
その何割かを後で、まとめて受け取ることになる。
或る女は、一度客から多額の金を受け取り、溜め込んで、
そのまま店に現れずに消えたことがあった。
それ以来、その女はこの界隈から永久に姿を消した。
もし、探し出され、見つかれば袋だたきになるからである。
どの世界でも掟破りは厳しい・・
遠い場所に流れて、好きな男と暮らしているという噂が流れたが、
一度味わった、快楽と堕落した生活を忘れることが出来ず
身を滅ぼしたというが、定かではない。