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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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fainal1/2-8

「何だい、あれ……取りつく島もないな」
「わたし、ちょっと見てくるから。片付けお願いね」

 今度は加奈までが消えてしまった。一人、残された健司は、暫くその場に佇んでいた。

 洗面所に入るなり、一哉は手持ちの救急箱に似た箱を開いた。中には、テーピングの道具一式が収められていた。

「上だけ裸になって、胸をタオルで隠せ」
「こ、此処で……ですか?」
「ああ、そうか。俺は出てるから、準備出来たら呼んでくれ」

 一哉は出て行った。佳代は躊躇いながらも、ユニフォームと下のシャツを脱ぎだした。

「どう?佳代は」

 扉の前に待つ一哉の下へ、加奈がやって来た。

「今、服を脱いでます。様子を見てもらえますか?」
「分かったわ」

 加奈が中に入ると、上半身裸になった佳代が胸元にタオルを巻いていた。

「藤野さん、どうぞ」

 呼ばれてから程なく、一哉が中に入って来た。

「降ろした左腕の肘先を直角に曲げて。それから、この畳んだタオルを肘に挟んでろ」

 言われるままの姿勢を取る。一哉はテープを引き出し、筋肉の盛り上がりに沿って直接貼り付けていった。
 佳代は頬を赤らめ、顔を背けている。一哉の指先が肌に触れる度に、恥ずかしさがこみ上げてまともに見れない。
 そんな娘の姿に微笑む加奈。まるで、懐かしいものでも見るような眼で。

「わたしも、昔はよくお世話になってたわ」
「えっ!?母さんがッ」

 初めて聞かされる母親の過去。羞恥心で無口になっていた佳代も、思わず訊き返す。

「大学1年の時、試合直前に肩を痛めてね。テーピングで応急措置したんだけど、コーチが男性で凄く恥ずかしかったわ。
 でも、何度もやっていく内に気にもならなくなったけど」

 答える加奈は、遠くを見つめるような眼になった。

「へえ。母さんがねえ」
「その話、旦那さんに聞きましたよ」

 それまで、作業に没頭していた一哉が会話に割って入ってきた。

「“此処が自分の捨て場所だ”と言われたそうですね」

 触れられるのもむず痒い青春のひとコマ。甦る記憶の恥ずかしさに、加奈の顔はみるみる赤くなり、悲鳴にも似た声を挙げた。

「あの酔っ払い……後で、とっちめてやる!」
「母さん、どういう意味なの?」
「わたしのことはいいからッ。あんたは自分の心配しなさい!」

 母親の、余りの取り乱しよう。これもまた、佳代にとって新たな発見である。


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