fainal1/2-5
「はい。澤田ですが……」
出たのは加奈だった。
「藤野です。昨夜はありがとうございました……」
一哉は挨拶もそこそこに、本題に入った。
「佳代は?もう学校に向かったんでしょうか」
朝からの、それも不可解な電話に加奈は戸惑いを覚えた。
「えっ?藤野さんには、連絡がいってないの」
「どういった連絡です?」
「佳代、病院で診てもらってから球場へ直接向かうって……」
一瞬、一哉の中に憤りが涌いたが、すぐに思い直した。
もはや、関わりの無くなった者に伝える義務はないという事だ。
「わかりました!ありがとうございますッ」
加奈はまだ何かを喋っていたが、一哉は早々に携帯を切ってしまった。
「急がにゃならんな……」
一哉は、そう呟くと濡れた身体を急いでタオルで拭い、着替えを済ませてアパートを飛び出した。
その右手に、救急箱の様な物を握って。
日曜日の病院。
佳代は薄暗い待合室に一人、診察室から声が掛かるのを待っていた。
何時もは大勢の人で埋まっている待合椅子も、今日だけはひっそりと佇み、明日からの出番を待っているようだった。
(早くしてくれないかなあ……)
焦燥感漂う不安気な顔で辺りを見回していると、顔見知りの看護師が近付いて来た。
「澤田さん、どうぞ」
「あッ、はい!」
緊張が一気に疾る。慌てて立ち上がった。
「また怪我したの?」
からかう様な言葉に、佳代は愛想笑いで応える。
「いえ。肩の調子を診てもらうのと、先生にお願いが……」
「お願い?」
意外な答えに、看護師が怪訝な顔をした。
「ええ。大事なお願いなんです」
佳代の顔からは、強い意志の様なものが感じられた。
「じゃあ、先生に診てもらいましょう」
看護師はそれ以上深く関わらず、佳代を診察室へと案内した。
「あれっ?先生……」
部屋には、偶然にも佳代の肩の怪我を担当した医師が、何時ものにこやかな表情で待っていた。