fainal1/2-4
「すいません……つい」
葛城は悄然となった。浅慮だと解っている。解っているが、言わずにおれなかった。
彼女にとって、一哉は仲間である以上に憧れであった。
──あの夏観た、一年生投手に対する人々の熱狂ぶりは凄まじいとさえ思えたものだ。
当時、わたしは高校の女子野球部に所属していて、この、あどけない顔立ちの二歳年下が見せるピッチングはどれほどの物かと、興味深い気持ちでテレビ画面を観ていた。
多分、素人受けの良い、潔い投球なのだろうと勝手に思い込んでいた。
でも、わたしの先入観は脆くも崩れ去った。渾身さを漲ぎらせ、力ずくで相手を捩じ伏せていく投球は、えげつなささえ感じた。
数ヶ月前に中学を卒業したばかりの少年が、ここまで勝負への執念を露わにする姿は、わたしにとって衝撃でさえあった。
程なくして同郷だと知り、彼に対する親しみは、益々大きくなっていった。
それから十一年の歳月を経て、偶然にも仲間となった。
偶像でない、生身の彼を知っても、わたしの中にあるあの夏の衝撃は何ら褪せる事は無かった。
それどころか、彼の指導者としての資質の高さに、わたしの憧れの部分は益々大きくなった。
なのに──。
引き留めたい一心から榊に全てを託したはずなのに、葛城はまた、昨日の思いをぶり返してしまう。
一晩明けても、未だ心の整理は付いていなかった。
選手逹が、決勝戦に向けた準備に余念がない頃。
「ぐっ……ああ……」
一哉は、床にうつ伏せの状態で朝を迎えていた。
焦点の合わぬ目が捉えた光景に違和感を覚え、暫く辺りを窺っていたが、やがて状況を把握するとゆっくり身を起こした。
「そうか……あのまま眠ったのか」
時計に目をやった。時刻は九時を過ぎていた。
未だ目覚めが悪い一哉は、こういう時は熱いシャワーが一番だと風呂場に向かった。
「ひでえ面だ……」
洗面所の鏡に映る酒でむくんだ顔が、昨夜の自堕落さを物語っていた。
風呂場でコックを捻る。熱い飛沫が、一哉の身体に刺激を与えて徐々に頭も覚醒していった。なのに冴えない表情。
──自分の捨て場所。
また、あの言葉が甦る。
しかし、昨夜と違う意味で。
昨夜は取り乱してしまったが、本当に佳代が自分の意志で出るというのなら、俺には止める手立てはない。
だが、例え出場したとしても、母親と同じ悲劇に遭わせない為に、何らかの助力をするべきではないのか。
昨日の出来事で、全てを捨て置こうと考えていた一哉の中に、別の思いが頭をもたげた。
──自分には、与える知識も技術もある。それを使わず、むざむざと見捨てるつもりか。
一哉は風呂場を飛び出した。居ても立ってもいられなくなった。
脱衣場に置いた携帯を引ったくるように掴むと、連絡を試みた。相手はすぐに出た。