fainal1/2-2
「ふッ……んん!」
直也が眠れぬ朝を迎えた頃、佳代は眠りから覚めた。
寝ぼけ眼でベッドから這い出ると、すぐに肩を回しだした。怪我をして以来、治り具合が気になって癖になっていた。
(うん!痛くない)
結果に満足した佳代は、ボールを投げる動作を試みる。ゆっくりと右足を踏み出して勢いよく左腕を振った。
「い、痛くないッ、やれる!」
痛みを全く感じないことが信じられない。佳代はさらに確かめようと、何度も々腕を振ってみたが、結果は同じだった。
怪我をして五日目。望んできたことが、急に現実味を帯びてくる。
「これなら、試合に出れるかも!」
しかし、佳代はここで思い留まった。
(投げ真似をしただけで、実際にボールを投げたんじゃない)
もし、試合中に痛みが再発でもしたら、最悪の場合は試合を潰しかねない。
「やっぱり、やっておくべきだよね」
別の結論に至った佳代は、それを実行に移すべく階下に降りて行った。
すると、時を同じくして寝室から加奈が現れた。
「……お、おはよう」
佳代から声を掛けた。その表情は硬い。
「あら?早いわね」
「母さんこそ。日曜日なのに……」
声が途切れ、見つめあう目と目。二人の間に無言の会話が交わされ、次第に気まずい雰囲気に包まれた。
「出るんでしょ?試合」
当然、その状況を払拭するように加奈が訊いた。佳代は母親の心境の変化に、一種の異様さを感じ取る。
「そ、そのつもり……だけど」
俯いたまま上目遣いに答える娘の様に、加奈はおかしさがこみ上げてきた。
佳代がまだ小さい頃、悪さをして怒られそうになる度に、決まって見せる仕種だった。
「病院へは?寄って行くんでしょう」
「母さん……止めないの?」
先日まで、あれほど反対していた母親の心変わりが、佳代には信じられない。
すると、加奈はため息混じりにこう言った。
「──もう、諦めたわ」
「か、母さん……」
「その代わり、どんな結果になっても後悔しないのよ」
「……う、うん!」
弾けるように佳代の顔が喜びに変わった。心底にあった滞りが一気に氷解した、そんな表情だ。
「じゃあ、朝ごはんの準備するから、顔洗ってらっしゃい」
「うん!」
ハツラツとした表情で洗面所に向かう娘を、加奈な眩しそうな眼で見送っていた。