fainal1/2-19
「先ずは第一関門突破だな」
「肩も不安なかったし、次はライトとキャッチボールだね!」
その時、佳代の中であるアイデアが閃いた。
「監督!」
「どうした?」
「試合前に、円陣組みませんか!」
永井の中で疑問が涌いた。あまり試合前から円陣は組まないからだ。その辺りを訊いてみると、
「サッカーなんか、試合前に円陣組んで格好いいんですよ!」
そう言って嬉しそうに笑っている。永井は「サッカーと比較するとは不謹慎な」と思ったが、すぐに思い直した。
(ずっとベンチで鬱ぎがちだったのが、これだけ喜んでるんだ)
永井は円陣を組むのを許可した。
「みんな集まって!」
佳代の号令に、皆が周りに集まった。
「これから試合前の円陣を組むから、みんな準備して!」
全選手十六名が、肩を抱き合い輪を作った。
「初めてじゃないか?試合前の円陣なんて」
「そうだな。なんか新鮮だな」
「いつもは中盤の攻撃前とか、気合いを入れる時だからな」
銘々が試合前の円陣に馴れないせいか、色々な感想を語っている中、佳代が「はい、こっち集中して」と注意を促した。
「今から、藤野コーチが言ったことを実践します」
「なんだ?実践って」
直也が訊いた。
「みんなで、心をひとつにすること」
全員の顔に緊張が疾る。声を出す者は誰もいない。
そんな雰囲気の中で、佳代は次の言葉を言った。
「今日、わたし逹は笑顔でこの球場を後にする。絶対だからね!」
次の瞬間、全員があらん限りに掛け声を発した。
バックネット側フェンスの扉が開き、審判達が姿を現した。
「集合!」
主審が右手を高く突き上げ、両チームの選手を呼び寄せた。
「いくぞ!」
キャプテン達也の掛け声と共に、選手全員が全速力でホームベースへと駆け込んで行く。
ベースを挟み、両チームの選手同士が厳しい眼をぶつかり合わせると、自然と闘争本能にスイッチが入る。
「ただ今より、沖浜中対青葉中による決勝戦を始めます!一同、礼ッ!」
互いが、帽子を取って頭を下げた。試合前の相手に対する礼儀だ。
同時に、スタンド全体から拍手が沸き上がった。中学生の大会にも拘わらず、スタンドのほとんどを観客が埋めていた。
ニ列になって並んでいた選手逹が二手に分かれる。先攻の沖浜中はベンチに、後攻の青葉中はグランドへと散った。