fainal1/2-18
「邪魔するぞ」
ブルペンでは、先発の省吾が達也と投球練習を繰り返していた。
二人が現れても言葉を返さない。省吾も達也も、自分逹の世界に入り込んでいる。
直也と佳代は気にすることなく、ひとつ空いたブルペンに入った。
「あッ!来たよ」
尚美は思わず指差した。
金網のすぐ向こうに直也と佳代がいるのだ。有理にそう報せると「応援に行こう!」と立ち上がり、金網に近づこうとした。
その時、
「やめるんだ!」
信也の怒声が、二人の行手を阻んだ。
「先発の省吾が、気持ちを作ってる最中だ。邪魔しないでやってくれ」
プレイヤーとしての心境を説かれ、尚美は理解していなかった自分が恥ずかしくなった。
「ご、ごめんなさい」
猛省する尚美の表情は暗い。それを見た信也は、急に落ち着きがなくなった。
「いや……俺もちょっと言い過ぎたよ。すまん」
成り行きを見守っていた山崎が、ニヤニヤしながら信也に耳打ちする。
「お前のヘタレぶり、初めて見せてもらったぜ」
「うるさいな!お前」
「お前が結婚したら、間違いなく恐妻だな」
山崎はそう言って笑い声を挙げた。信也は苦々しい顔で、山崎を睨み付けるだけだった。
自分逹の間近な場所で、喜劇みたいなやり取りが繰り広げられていたとは、佳代も直也も知る由もなかった。
「いくぞ!」
マウンド側に立つ直也が軽く投げた。ボールは、胸元に構える佳代のグラブに入った。
「よし!投げてみろ」
直也が、胸元にグラブを構える。
「いくよ!」
佳代は「いつも通りに」と心に言い聞かせ、軽いステップから左腕を振った。
指先からボールが放たれる。緩やかな弧を描き、ボールが直也のグラブに吸い込まれた。
「うん!回転もいいな」
「ホント!」
問題なく投げれた事に、思わず顔がほころぶ。
(次は、もうちょい力入れてみよう)
佳代はボールを放す瞬間、さっきより僅かだけ力を入れてみた。
「いい球だ。肩はどうだ?」
「全然。全く痛くないッ」
「じゃあ、どんどん行こう!」
投げる度に、笑顔が零れる佳代。直也も、威力を増していくボールに自然と表情が緩む。
「そろそろ並びますよ」
後輩の川畑が呼びにきた。四人は、ブルペンからベンチ前へと急いだ。
省吾と達也はスポーツドリンクで試合前の水分補給を行う。直也と佳代は、グラブをベンチに置いてベンチ前に並んだ。