fainal1/2-17
「こういう、グランドレベルから眺めるのもたまには良いだろう?」
榊は促すように椅子にもたれ掛かった。一哉はとなりの椅子に腰掛けると、おもむろに口を開いた。
「ここまでのセットアップを仕込むんですから、余程大事な話なんでしょうね?」
その途端、榊の目が大きく見開いた。
「そんなに解り易かったか?」
「以前も言いましたが、榊さんは相談前の前置きが長いんですよ」
上手くやったつもりが完全に見透かされいる。榊は「やれやれ」と首をニ度、三度と横に振った。
「野球部を辞めた件なら、結構ですよ」
いきなり、核心を一哉は突いた。榊は再び驚きの顔になった。
「大方、葛城さんあたりから聞いたんでしょうが、もう結論は出していますから」
「そうか……」
榊の心に諦めが過る。頑なな性格だと知る者からすれば、今のは固辞だと思えた。
──どうか彼を、説得して下さい!
──どうか彼と、試合を見て下さい!
葛城の縋る声と、永井の真剣な眼差しが甦る。榊は今一度、留意の機会を待つ事にした。
「まあ、話は追々とさせてもらうよ」
その時、球場アナウンスが試合開始十分前を報せた。
二人はグランドに目をやった。先程まで練習していた選手逹が、各々のベンチに引き上げて行く。
「君や永井君、葛城さんが育てた選手逹を、じっくり見せてもらうよ」
「はい……」
二人の眼に、鋭いものが加わり始めた。
「佳代、キャッチボールやるぞッ」
後攻めの青葉中は、先発メンバーだけがベンチ前でキャッチボールを繰り返し、控え選手だけベンチに引き上げてきた。
そんな中、直也はそう言って佳代にグラブを渡そうとする。
「い、いまから?」
不可解な顔をする佳代。
「そうさ。先ず、ブルペンで軽くやって問題なければ、守備の度に加賀とやるんだ」
「ああ、なるほどッ」
早速、二人はブルペンに向かった。開始五分前にはベンチ前に整列しなくてはならない。せいぜい十球程度しか出来ないだろう。
しかし、佳代にとっては復活出来るかを見極める為の、大事な通過点のひとつだ。